男子小中高生に向けた包括的性教育を考える(1) 国際的指針と男子へ伝える意義とは
本ニュースレターでは、女性の健康や産婦人科医療に関わるホットトピックや社会課題、注目のサービス、テクノロジーなどについて、産婦人科医・重見大介がわかりやすく紹介・解説しています。「○○が注目されているけど、実は/正直言ってxxなんです」というような表では話しにくい本音も話します。
今回は無料登録で全文読める記事です。メールアドレスをご登録いただくだけで最後まで読むことができます。
性教育というと、何を思い浮かべるでしょうか?
従来の性教育は、「妊娠の仕組み」や「性感染症の予防」など、主に医学的な知識の伝達にとどまるものでした。現在、「包括的性教育(CSE)」と呼ばれる新しい枠組みが国内外で広がりつつあります。包括的性教育は単に身体の知識を伝えるだけではなく、人権やジェンダー平等、健全な人間関係や心のケアまでを含んだ、人生に直結する学びです。
その中でも重要な観点の一つが「男子へのアプローチ」。これまで女子中心に語られがちだった性教育を、男子もしっかり主体的に学ぶことが、社会全体のSRHR(性と生殖に関する健康と権利)に大きく影響します。
今回は、国際的指針に基づき、男子に焦点を当てた包括的性教育の意義を整理していきます。
この記事でわかること
-
包括的性教育(CSE)の定義と特徴
-
包括的性教育における8つのキーコンセプト
-
包括的性教育における9つの原則
-
男子へのアプローチの必要性
-
国際的指針における男子が学ぶべき5つのトピック
-
その他の国際的な取り組み
-
マイオピニオン(総合的な私個人の考えや意見)
包括的性教育(CSE)の定義と特徴とは?
包括的性教育(Comprehensive Sexuality Education, CSE)とは、性に関する認知的・感情的・身体的・社会的側面すべてを扱う包括的な教育プログラムです。
つまり、包括的性教育は単なる生物学的知識にとどまらず、人権やジェンダー平等、健全な人間関係、自己の幸福(ウェルビーイング)までも視野に入れたものとなっているんですね。
国際的な教育に関する機関であるユネスコを含む複数の機関が「国際セクシャリティ教育ガイダンス:科学的根拠に基づいたアプローチ」(文献1)を公開し、包括的性教育の導入を奨励しています。
包括的性教育の特徴は、年齢に応じた段階的カリキュラムで、8つの鍵となるトピック(キーコンセプト)を扱う点にあります。
8つのキーコンセプト(著者作成)
また10個の原則として、以下が掲げられています。
これらが定められていることも、非常に重要だと思っています。科学的に不正確で偏った思想が混じっていてはダメですし、年齢・成長に応じて伝えることは変わっていきますよね。そしてその国や地域の文化的関係・状況と適応させることも大切な点でしょう。
-
科学的に正確であること
-
段階的に進展すること
-
年齢・成長に即していること
-
カリキュラムベースであること
-
包括的であること
-
基本的人権に基づくアプローチであること
-
ジェンダー平等を基盤にしていること
-
文化的関係と状況に適応させること
-
変化をもたらすこと
-
健康的な選択ができるためのライフスキルを発達させること
国際機関も標準的なプログラムとして推奨していて、その効果も検証されています。
これまでの研究で、包括的性教育を受けた若者には、
-
望まない妊娠や性感染症の予防効果
-
ジェンダー平等意識の向上
-
性的暴力の減少
-
良好な人間関係構築
など、多岐にわたるプラスの効果が確認されています(文献1)。
また、包括的性教育プログラムは同性愛を嫌悪するようないじめの減少や、デートDV・性的暴力の加害/被害の減少、「傍観者」としての行動の改善、対人関係のスキル向上などをもたらしたとの報告もあります。
このように、包括的性教育は青少年の健全な成長と安全を支える重要な教育だと認識されています。
*過去に書いた以下の記事もぜひ参考に読んでいただけると嬉しいです。
男子へのアプローチの必要性
では、次に男子へのアプローチについて考えてみましょう。
国際的には、思春期の男子を含むすべての若者に適切な教育を行うことが不可欠であることが認識されています。一方で、従来の日本の性教育は「女の子に避妊を教えて妊娠を防ぐ」といった側面が強調されがちでした。
こうした状況を受けて、2019年には、国連子どもの権利委員会が日本政府に対して、「思春期の女子および男子を対象とした包括的な性と生殖に関する教育を学校の必修カリキュラムとして一貫して実施すること」を勧告しています。(文献2)
男子へのジェンダー平等や性的同意を伝える教育は、本人たちの健康のみならず女性や社会全体のSRHRにつながる重要なアプローチになります。というか、不可欠なものでしょう。
日本でも世界でも課題である「ジェンダー不平等」や「性的暴力」を根絶するには、男性・男子側の態度や行動を変革しなければいけないことが指摘されていますし、これは日本のニュース(権力を持つ男性による不同意性交や、教員による盗撮など。。)を見ていても強く感じるところです。
実際に、「ジェンダーや関係性のパワーバランスに踏み込んだ性教育」を行ったプログラムでは、行わなかった場合に比べ、避妊や性感染症予防の成果がかなり高まったとの研究結果も報告されています。(文献3)
私自身、周囲の男友達と接していてもこうしたSRHRへの意識にかなり差がありますし、男子校での性教育にいった際には「これは全男子に話していくべきだな」と強く感じています。
男子に対して重要な性教育のトピックは?
ユネスコをはじめとする国連機関は、各国の性教育カリキュラム策定の基準として「国際セクシャリティ教育ガイダンス」を提示しています。2018年改訂版では特にジェンダー平等と人権尊重が強調され、UN Womenも策定に参加しました。
この国際ガイダンスでは、5~18歳の発達段階ごとに習得すべき知識・態度・スキルが細かく定められていて、その中には男子児童・生徒にとって重要なポイントが含まれます。
今回は男子児童・生徒に深く関係する5つのポイントに絞って紹介します。
各ご家庭でも必ず参考になる情報だと思います!
提携媒体
コラボ実績
提携媒体・コラボ実績