妊婦本人の希望による帝王切開は「単なるワガママ」なのか?
本ニュースレターでは、女性の健康や産婦人科医療に関わるホットトピックや社会課題、注目のサービス、テクノロジーなどについて、産婦人科医・重見大介がわかりやすく紹介・解説しています。「○○が注目されているけど、実は/正直言ってxxなんです」というような表では話しにくい本音も話します。
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帝王切開は、母子の命を守る大切な医療行為です。産婦人科医としては日常的な手術ですが、妊婦さんにとっては人生における一大事ですし、実施する際には何かしらの医学的根拠が求められます。
一方で近年、「医学的な理由はないけれど、本人の希望で初回から帝王切開を選びたい」という声も聞かれます。これは「妊婦さんのワガママ」なのでしょうか、それとも尊重すべき選択なのでしょうか。私も臨床現場で悩んだ経験が何度もありました。
本記事では、最近出た米国からの論文を参考にしながら、産婦人科医の視点で「妊婦本人の希望のみで行う帝王切開」のメリットとリスク、そして納得のいく意思決定のあるべき姿を考えてみます。論文を読みながら、私自身の考え方も少し変わりました。
この記事でわかること
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希望帝王切開(CDMR)とは何か
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なぜ問題なのか
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希望する背景にある複雑な理由
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母体のメリットとデメリット
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赤ちゃんへの影響
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日本の診療ガイドラインに書かれていること
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実施する場合に推奨される時期
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マイオピニオン(総合的な私個人の考えや意見)
希望帝王切開(CDMR)とは何か?なぜ問題なの?
希望帝王切開(CDMR: cesarean delivery on maternal request)は、母体・胎児に医学的な適応がないにもかかわらず、「本人の希望」を主な理由として行う初回の帝王切開を指します。
ポイントは「緊急時に母子の命を守る帝王切開」とは位置づけが異なり、価値観(安心感、出産体験のコントロールなど)と医療上の利益・不利益を、丁寧にすり合わせる必要がある、というところでしょう。
希望帝王切開は、陣痛が始まる前に予定して行う場合も、入院後(陣痛中)に本人の希望として持ち上がる場合もあり、後者は時間的な制約が強く、より慎重な対応が求められます。
私自身、陣痛が来て頑張っていた妊婦さんから「もう無理です、耐えられないので帝王切開にしてください」と言われ、医学的適応との間で悩んだこともありました。
今年1月に、米国の医学雑誌「American Journal of Obstetrics & Gynecology」に1つの論文(Expert Review)が掲載されました。(文献1)
この論文では、米国の帝王切開率が高い水準で推移していること、また希望帝王切開は全体の中では「割合としては小さいが増えている」ことが示されています。
さらに国によって希望帝王切開の頻度は大きく異なり、背景には文化的な出産観、情報取得環境、医療制度(記録やコード化の難しさ)など、医学だけでは説明できない要素が絡みます。
つまり希望帝王切開は「正しい/間違い」で簡単には片づけにくい話題であり、当事者(妊婦さん)の不安や事情を尊重しつつ、医療としての安全性と将来への影響を天秤にかけながら意思決定する必要がある、というのが本論文の主な内容です。
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