思春期の生理痛とメンタル不調、驚きの関係とは? 〜抑うつ、自傷など〜
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思春期の生理痛は「気のせい」でも「我慢すべきもの」でもありません。若い世代ほど、生理痛が重い傾向にあることもわかっています。しかし、学生さんはさまざまな原因で、きちんとした対処をできていないことが多いように感じています。
最近、月経の痛みと抑うつ・不安、自傷や自殺念慮との関係について調査・分析した研究結果が報告されました。この記事では、こうしたデータを基に、思春期の生理痛とメンタル不調のリアルな関係を紐解いてみます。
この記事でわかること
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生理痛が心理面に影響しうる背景やメカニズム
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思春期の生理痛と抑うつ・不安・自傷・自殺念慮との関連
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早めに気づくサインと受診の目安
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鎮痛薬の適切な使い方、ホルモン療法の位置づけ、セルフケア、心理的支援の重要性
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学校・家庭・地域でできることとは
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マイオピニオン(総合的な私個人の考えや意見)
「痛み」と「こころ」はつながっている:しくみを解説
生理痛が強いと、日常生活や学校の授業、部活動などに支障を来してしまいとても辛いもの。
ある調査によると、約70%の中高生が月経痛に悩まされており、そのほとんどが薬なしで我慢をしていたり、授業で辛い思いをしていたり、家で寝込んだりしているという結果でした(文献1)。このような結果をみると、「生理痛は仕方のないもの」として我慢している若い女性が多いことがわかります。
おそらく、なかなか友人などと痛みについて話し合ったりできていないことや、親からのイメージの刷り込み(みんな痛いのが当たり前だから我慢して当然)があるケースも少なくないのでしょう。
*以下の記事で、10代の女性が抱えやすい月経の悩みを詳しく解説しています
生理痛(強い場合は「月経困難症」と呼ばれます)は“身体の痛み”ですが、こころの不調(落ち込み・不安・自傷衝動・死にたい気持ち)と互いに影響し合うことが分かってきました。痛みがつらいほど心理的な負担が増え、心理的な不調が強いほど痛みの感じ方も増幅される――双方向の関係があっても不思議ではありません。
なぜ、痛みとこころの不調はお互いが結びつくのでしょうか。背景には生物的・心理的・社会的要因が絡み合う複雑な仕組みがあることがわかってきています。
たとえば、ストレスや不安は痛みの信号を増幅させ、痛みが長引くと不眠・活動低下・学校の欠席や人間関係の回避につながっていきます。そうなると、さらに気分が落ち込むといった負の循環が起こります。最近の研究では、「恐怖-回避モデル」と呼ばれるメカニズムがこの悪循環の中心にあると示唆されています(文献2)。痛みへの強い不安や「なんで私ばかり辛い思いをしなきゃいけないの」という思いが、痛みの強度も心理機能の低下も同時に強めてしまうんですね。
また、社会的な要因も見過ごせません。思春期の生理痛は文化や周囲の雰囲気の中で“みんな我慢してるしょうがないこと”として過小評価されやすく、医療や学校の対応が十分でないと、孤立感や不公平感が強まり、心理的負担が増してしまいます。
こうした状況では、痛みによる"社会的ひきこもり"が不安や抑うつを悪化させ、より深刻な心理症状につながる可能性も指摘されています。
一方で、うつ症状や不安といった先行する心理状態が、神経系の過敏さやストレス反応を通じて痛みの体験を強める側面もあります。つまり、月経痛とメンタルの不調は一方通行ではなく、“循環しながら強めあう”関係だと言えるでしょう。実際、思春期の女の子では精神的な不調が痛みや月経関連症状のリスク因子になりうることも報告されています。
大切なのは、「痛み=本人の我慢や性格の問題」では決してないということです。健康への最終的な影響は、生物学的(ホルモン・神経)、心理的(考え方・感情)、社会的(人間関係・学校環境)な要素の相互作用で決まります。個人差が大きく、背景や家庭・文化の事情、ジェンダーや性自認/性表現に関する配慮も欠かせません。
だからこそ、痛みへのケア(鎮痛剤・ホルモン療法・生活面の調整)とメンタルケア(安心できる相談・支援)を“両輪”で考えることが、悪循環を断ち切るためにはとても大事なんですね。
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- スウェーデンの思春期女子:重い生理痛や心理的症状を持つ生徒はどのくらいいる?
- 思春期の生理痛と抑うつ・不安・自傷・自殺念慮の関連とは
- 早めに気づくサインと受診の目安は?
- 治療と支援の選択肢:痛みケア+メンタルケアの“両輪”で
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