PMS/PMDDと体内リズムの気になる関係 〜睡眠、体温、ホルモン〜
本ニュースレターでは、女性の健康や産婦人科医療に関わるホットトピックや社会課題、注目のサービス、テクノロジーなどについて、産婦人科医・重見大介がわかりやすく紹介・解説しています。「○○が注目されているけど、実は/正直言ってxxなんです」というような表では話しにくい本音も話します。
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ニュースレター読者の方の中にも、月経前の不調を抱えている方がいらっしゃるのではないでしょうか。一定の条件を満たすと、月経前症候群(PMS)や月経前不快気分障害(PMDD)として診断され、適切に治療を受ける方が良い状態だと考えられます。
最近の研究では、PMS・PMDDにはこれまで考えられていたよりも複雑な要因があり、特に体内の生体リズムと呼ばれる、1日を通した体のリズムと関連している可能性が指摘されています。この記事では、どのように生体リズムとPMD/PMDDが関連しているのか、最新の知見を解説していきます。
この記事でわかること
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PMSとPMDDの違い
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睡眠のリズムとPMS、PMDDとの関係
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体温のリズムとPMS、PMDDとの関係
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ホルモン分泌のリズムとPMS、PMDDとの関係
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最新の研究を踏まえた今後の展望
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マイオピニオン(総合的な私個人の考えや意見)
今回の記事では、2024年にBMC women's health誌に掲載されたレビュー論文「Biological rhythms in premenstrual syndrome and premenstrual dysphoric disorder: a systematic review」(文献1)を参考に解説していきます。
PMSとPMDDの違い
多くの女性は月経開始前に何らかの不調を感じますが、その程度には個人差があります。そのなかでも特に重たい症状があったり、毎月定期的に症状が出てしまう状況であれば、一定の条件を満たすことで月経前症候群(PMS)や月経前不快気分障害(PMDD)という疾患だと診断されます。
PMSの特徴は、さまざまな症状が月経前に3~10日間ほど続きますが、月経が始まると自然に軽快・消失します。日本人女性では8割程度の人がこうした不調を自覚しており、うち約5%は重いPMSで日常生活に大きな支障を持っているとされています。イライラ感や頭痛、腹痛、むくみなど多彩な症状が見られます。
PMDDはPMSの精神・感情面における重症型で、特に感情面の変化(強い憂うつ感、不安、怒りなど)が主体となっており、抑うつ障害に分類されています。
PMS/PMDDの症状は月経開始とともに軽快しますが、月経前の数週間は生活の質(QOL)が著しく低下することが知られています。イライラするせいで、人と会うと言いたくもないひどいことを言ってしまい、後で後悔してしまうことも少なくないですし、そうしたトラブルを避けるため月経前に人と会うのを避ける方もいらっしゃいます。
また、過去の研究では、PMDDを有する女性は一般の女性より自殺を試みるリスクが7倍、希死念慮リスクが4倍高いとされ、PMSを有する女性でもリスクの増加が認められました(文献2)。これはPMS/PMDDが単なる「気分の乱れ」ではなく深刻な健康上の問題であることを意味しています。社会全体で、こうした認識をきちんと持っていくことが大事だなと改めて思います。
*映画「夜明けのすべて」(2024年)は、PMSに悩む女性と、パニック障害を抱える男性が、互いに支え合いながら生きる姿を描いた作品です。私も鑑賞し、胸を打たれました。ぜひご覧になってみてください。

映画「夜明けのすべて」(2024年)
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