男子小中高生に向けた包括的性教育を考える(3) 日本の現状とこれからについて
本ニュースレターでは、女性の健康や産婦人科医療に関わるホットトピックや社会課題、注目のサービス、テクノロジーなどについて、産婦人科医・重見大介がわかりやすく紹介・解説しています。「○○が注目されているけど、実は/正直言ってxxなんです」というような表では話しにくい本音も話します。
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「包括的性教育(CSE)」と呼ばれる新しい性教育の枠組みが世界的に広がりつつあります。包括的性教育は単に身体の知識を伝えるだけではなく、人権やジェンダー平等、健全な人間関係や心のケアまでを含んだ、人生に直結する学びと言えるでしょう。
一方で、日本の学校教育を振り返ると、包括的性教育の普及はまだ道半ばです。先進的な内容は「行き過ぎ」と批判されることも少なくなく、現場は慎重な姿勢を崩せないという声も耳にします。特に、男子への現代で必要不可欠な情報提供はまだまだといったところでしょう。
しかし近年、新たな試みが芽生えつつあり、変化の兆しも見えてきました。本シリーズ記事の最終回である今回は、日本における男子向け性教育の現状と課題、そして未来への展望を探っていきます。
この記事でわかること
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日本における性教育のこれまで
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日本における男子向け性教育の現状
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国内の先進的取り組み:学校、NPO、企業、学生自身の取り組みなど
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日本の課題とは何か
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マイオピニオン(総合的な私個人の考えや意見)
これまでに、まず1回目の記事では、国際的指針の紹介と、男子に焦点を当てた包括的性教育の意義を整理しました。
そして2回目の記事では、先進的な海外事例を紹介しながら、日本でもどう活かせるのかを考えてみました。
これらを踏まえて、今回(最終回)の内容に進んでいきましょう。(過去2回の記事をまだ読んでいない方は、ぜひそちらから読んでみてくださいね)
日本における性教育のこれまで
日本の学校における性教育は長年、さまざまな批判を受けてきました。(文献1)
その一つは、生殖の仕組みや感染症などの衛生課題に重きを置いてきていて、ジェンダーや人間関係などについて踏み込んで教えることが少ない状況が続いていることです。
文部科学省は1999年に「学校における性教育の考え方・進め方」という通知を出し、人間形成を重視した幅広い性教育を理念上は示していますが、現実には各学校で慎重な姿勢が取られています。2003年には、東京都の養護学校で行われていた性教育に対し、数名の都議会議員が教育委員会を通じて介入・中止させ、教員を不当に処分する事件(七生養護学校事件)が起きました。(のちに裁判で都議と都に対して「教育に対する不当な支配」として損害賠償が命じられ、都教委による厳重注意も違法と判断されました。)
とはいえ、近年、性教育は少しずつ変化してきています。
2017~2018年改訂の学習指導要領では、保健体育科の内容に「妊娠・出産といった具体的な内容」「望まない妊娠の防止」「性感染症予防」など若干の記述が追加されました。しかしその範囲は依然として限定的で、ユネスコが指摘するような、子どもたちの現実や発達上のニーズに応えられるものにはなっていないのが実情です。
2018年には、東京都内の区立中学校で避妊と人工妊娠中絶について指導要領以上に踏み込んだ授業を行ったところ、保守派都議に「行き過ぎだ」と問題視され、大きく報道される事態も起きました。このケースでは保護者や世論から支持する声も上がり、2003年当時とは異なり包括的性教育の必要性に対する社会の認識は高まりつつあります。
そうはいっても、日本の学校で包括的性教育(CSE)が体系的に行われている例はまだ限定的です。文科省も保守的な指導を維持しており、教師側も抵抗感や準備時間不足から消極的になる傾向があります。
しかし、日本の若者への情報提供が遅れたままでは、SNSやネット情報に頼る「誤った性の学び」が横行しかねません。実際に、日本財団が行なっている「18歳意識調査」(文献2,3) では、学校での性教育が「役に立たなかった」と答えた割合は、2018年の40.9%から、2021年には41.5%に上がっています。
また、2018年には、性に関する情報源はWebサイト・友人・SNSの順で高く、「教師」を大きく上回っていました。2021年の段階では、学校教育でより深めてほしかった内容として、「恋愛や健康な性的関係に関する知識」をあげている割合が40.9%にのぼっており、包括的性教育をさらに普及させていく必要性が示されていると言えるでしょう。
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