性教育シリーズ(8) 〜性的自立を育む〜
本ニュースレターでは、女性の健康や産婦人科医療に関わるホットトピックや社会課題、注目のサービス、テクノロジーなどについて、産婦人科医・重見大介がわかりやすく紹介・解説しています。「○○が注目されているけど、実は/正直言ってxxなんです」というような表では話しにくい本音も話します。
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「性的自立」という言葉を聞いたことはありますか?自分の体や心を尊重し、他者との関係でも自分の意志を大切にする力を意味します。特に現代の社会では、性に関する情報があふれ、時に戸惑いや不安を感じることもあるかもしれません。
今回は性教育シリーズの第8回目として、性的自立の意味や子どもに伝える・意識してもらう具体的な方法について、一緒に考えていきましょう。
この記事でわかること
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「包括的性教育」とはどういうものか
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性的自立が不十分な状態における危険性やリスクとは
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伝えるときのポイント(1) 自分の体を知り、尊重することの大切さ
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伝えるときのポイント(2) 自分の意志を明確にし、相手と対等な関係を築く
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伝えるときのポイント(3) 性的同意の必要性と境界を守る
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伝えるときのポイント(4) 情報リテラシーを高め、誤情報に惑わされない
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具体的な伝え方の例
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日常生活で伝える・考えてもらうための工夫や取り組み
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将来の仕事でも役立つ場面や理由
「包括的性教育」のおさらい
日本で多くの人がイメージする「性教育」は、「性に関する知識やスキル」として、妊娠・出産の仕組みや避妊、性感染症予防を教える(学ぶ)ことかもしれません。
しかし、「包括的性教育」はこれとは異なる概念です。国際的に広く認知・推進されている、「性に関する知識やスキルだけでなく、人権やジェンダー観、多様性、幸福を学ぶ」ための重要な概念なのです。英語ではcomprehensive sexuality education (CSE) などと表現されます。
詳細は以前の記事にまとめたので、まだ読んでないという方はぜひ先にご覧ください。
性的自立が不十分な状態における危険性やリスクとは
性的自立が不十分な状態では、思春期の子どもにとって以下のようなリスクや危険性が生じる可能性があります。それは、身体的な健康だけでなく、精神的な健康や将来の人間関係にも影響を与えるものであり、誰しもが考えておく必要があると言えるでしょう。
1. 無意識のうちに望まない関係性に巻き込まれる
性的自立が不十分だと、自分の意志や感情を明確にできないため、他者の要求に流されやすくなります。例えば、友達や恋人からのプレッシャーに負けて性行為に応じたり、望まない触れ合いを拒否できなかったりすることがあります。
これにより、自分の意思に反する行動をとることで後悔や罪悪感を抱き、自己肯定感を損ないやすくなってしまいます。
2. 性的暴力やハラスメントの被害
性的自立が不十分だと、自分の「境界」を守る力が弱いため、性的暴力やハラスメントの被害に遭いやすくなります。
例えば、友人関係やSNSを通じて性的な要求を受けた場合、断ることに不安を感じ、結果的に被害を受けてしまうことがあります。また、自分の体や感情に関する知識が不足していると、相手の行動が不適切であることに気づけないこともあります。
3. 性感染症や望まない妊娠のリスク
性的自立には、性行為に関する正しい知識を持ち、自分の健康を守る選択をする力も含まれます。これが不十分な場合、避妊や感染症予防の重要性を理解していなかったり、実行に移す自信がなかったりすることで、性感染症や望まない妊娠のリスクが高まります。
特に思春期は、自分の体の変化や性の話題に対する恥ずかしさから、正しい知識を得る機会が限られることも一因でしょう。
4. インターネット上での危険
現代の子どもたちはSNSやインターネットを通じて性に関する情報を得ることが多い一方で、性的自立が不十分だと、誤った情報を信じたり危険な誘いに乗ってしまうことがあります。
例えば、見知らぬ人とのやり取りで自分の写真を送るよう求められたり、不適切なコンテンツにアクセスしたりすることで、トラブルに巻き込まれることがあります。
5. 精神的なストレスとトラウマ
これらのリスクに直面すると、心に深い傷を負い、長期的なストレスやトラウマを抱える可能性があります。これが学業や日常生活に悪影響を及ぼし、さらに人間関係や将来の選択にも影響を与えることになりかねません。
性的自立は、思春期の子どもが自分を守り、自分らしく生きるために欠かせないスキル・状態です。正しい知識を知ってもらい、安心して話せる環境を整えることで、これらのリスクを未然に防ぐことがとても大切です。
SNSやインターネット上の危険性については前回のレターにまとめていますので、ぜひ参考にしてください。