劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)の恐ろしさ 〜妊婦や新生児の注意点〜

妊娠中に起こり得る、稀ながら恐ろしい疾患の一つが劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)です。今回はこの疾患について詳しく解説します。
重見大介 2024.08.05
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妊娠中には、健康に大きな影響を及ぼす疾患がいくつか存在します。その中でも特に注意すべき疾患の一つが、劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)です。この感染症は非常に重篤な状態になることがあり、迅速な治療が必要となります。

ちょうど今年7月には、この感染症による妊産婦さんの死亡例が増加していることについてニュースにもなりました。

今回は、STSSの恐ろしさとその予防、初期症状、治療法について、妊婦と新生児に注目して詳しくご紹介します。少しでも皆さんの知識と理解が深まり、安心して妊娠生活を送る助けになれば幸いです。

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この記事でわかること

  • 劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)とは何か

  • STSSに罹患しやすい人(リスク因子)

  • 妊娠中〜産後にSTSSに罹患した場合どうなるか

  • 新生児にSTSSに罹患した場合どうなるか

  • STSSの初期症状

  • STSSの予防策:日常生活でできること

  • STSSに罹患した場合の治療法

  • マイオピニオン(私個人の考えや意見)

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劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)とは?

劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)は、溶血性レンサ球菌によって引き起こされる非常に重篤な感染症です。この細菌は通常、咽頭炎や皮膚感染症など、軽度な感染症を引き起こすことが多いですが、時には体の深部に侵入し、劇症型と呼ばれる危険な状態を引き起こすことがあります。STSSはその名の通り、急速に進行し、適切な治療を受けないと致命的な結果を招くことがあります。溶血性レンサ球菌のうち、A群というタイプ(GAS)が多いとされています。

GASは主に飛沫感染や接触感染を通じて広がります。感染者の咳やくしゃみによる飛沫や、感染した傷口や物に触れることで感染が広がります。学校や家庭内など、密接な接触がある環境で特に感染リスクが高まります。

STSSの恐ろしさは、その早い進行と重篤な症状にあります。感染が始まると、細菌は血流に乗って全身に広がり、強力な毒素を産生します。これにより、体内の臓器や組織が急速にダメージを受け、敗血症や多臓器不全、ショック状態に陥ることがあります。初期症状は一般的な風邪やインフルエンザに似ているため、見逃されやすいですが、症状が急速に悪化するのが特徴です。致死率は 30〜40%と高いにも関わらず、はっきりした感染巣が不明な場合が多いことに加えて、数時間単位で症状が進行することがあります(文献1)。

なお最近では、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律に基づく医療機関からの患者報告数の増加が見られており、2024年の報告数は、6月時点で、1999年に統計を取り始めて以降最多だった2023年の報告数を既に超えています
2024年第1~24週(2024年1月1日~6月16日)までに診断され、感染症発生動向調査に届け出されたSTSS症例は1,060例となっています(国立感染症研究所. 国内における劇症型溶血性レンサ球菌感染症の増加について (2024年6月時点))。

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続きは、3868文字あります。
  • STSSに罹患しやすい人(リスク因子)は?
  • 妊娠中〜産後のSTSSによる影響と予後
  • 新生児のSTSSによる影響と予後
  • STSSの初期症状はどんなものか
  • STSSの予防策:日常生活でできること
  • STSSに罹患した場合の治療法とは
  • マイオピニオン(私個人の考えや意見)

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