なぜ生物には閉経が存在するの? 〜進化してきた閉経の歴史からわかること〜
本ニュースレターでは、女性の健康や産婦人科医療に関わるホットトピックや社会課題、注目のサービス、テクノロジーなどについて、産婦人科医・重見大介がわかりやすく紹介・解説しています。「○○が注目されているけど、実は/正直言ってxxなんです」というような表では話しにくい本音も話します。
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女性はいずれ閉経を迎え、月経(生理)が止まる。
当たり前に知られているこの「閉経」という現象は、実は生物の世界ではとても珍しく、特殊な現象です。今回は、歴史とともに「進化」してきた閉経の経緯を振り返りながら、生物にとってどういう意味があるのかを一緒に考えてみましょう。
この記事でわかること
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医学的に閉経とはどういうものか
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生物における閉経はどういう意味を持つか
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哺乳類における閉経の進化:2つの仮説
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哺乳類における閉経の真の役割とは
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マイオピニオン(総合的な私個人の考えや意見)
医学的に閉経とはどういうものか
閉経は女性の人生における重要な転換点です。一般的に閉経は月経(生理)が止まることを指しますが、医学的にはもう少し複雑な定義があります。
医学的に、閉経は、ホルモン生成量の変化によって、女性の生殖機能が低下し月経が途絶えるという生理的なプロセスとして起こります。具体的には、卵巣の機能が徐々に低下し、女性ホルモンの分泌が減少することで、月経周期が不規則になり、最終的に止まる状態を指します(日本人では平均で約50.5歳です)。
閉経は数年にわたる閉経移行期(更年期)を経て起こりますが、この期間中、女性はさまざまな身体の変化を経験し、程度や期間には個人差がありますが、ホットフラッシュ(急な発汗)、寝汗、不眠、気分の変動などの症状が現れることがあります。
*更年期の基本とよくある誤解については過去の記事で詳しく解説していますので、ぜひそちらも参照ください。
生物における閉経はどういう意味を持つか
生物学の視点から見ると、閉経の最大の特徴は「死を迎えるより何十年も前に繁殖期間が終了する」ことです。これは、生物の進化の観点からすると一見矛盾しているように考えられるそうです。なぜなら、遺伝子を次世代につなげることが重要な生物の世界においては、可能な限り長く繁殖能力を持つほうが良いと思われるからです。実際に多くの生物においては、寿命と繁殖期間がほぼ同じ長さであるようです。
つまり、ヒトの女性にとって閉経は当たり前の現象ですが、実は、生物の世界では閉経はとても珍しく、特殊な現象なのです。(文献1)