切迫早産の治療について 〜日本の課題、海外との違い〜

今回は妊娠中の合併症の一つである「切迫早産」について、日本の課題、海外との違いを整理し、患者さん(妊婦さん)があまり聞かされることのない話題まで踏み込んで解説します。前半部分は無料で読めます。
重見大介 2023.02.28
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この記事でわかること

  • 早産、切迫早産とはどんなものか

  • どんな人が早産になりやすいのか

  • 日本における切迫早産への治療法

  • 切迫早産の治療における日本と海外の違い

  • 子宮収縮抑制薬の長期投与はどれくらい有効なのか

  • これからの日本の切迫早産診療に求められること(マイオピニオン)

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早産、切迫早産とは

まず、「早産」について確認しておきましょう。早産とは、「妊娠22週0日〜36週6日での分娩」のことで、新生児の未熟性による様々な合併症や死亡率の高さが大きな問題となります。実際には、産まれた赤ちゃんの健康へ影響する最大の要因と考えられており、早産を減らすことが赤ちゃんの健康状態の向上に直結するほど重要なのです。

世界全体のデータでは、早産のうち約7割が自然早産、3割が人工早産(医学的に妊娠継続が難しいと判断された場合)とされています(1)。また、早産率は国や地域によって大きく異なり、欧州のいくつかの国では5〜6%程度ですが、アフリカ諸国では20%近くになります(2)。日本の早産率は概ね5〜6%程度を推移しており、世界の中でとても低いレベルですが、逆にいえば「これ以上は減らすことができていない」とも言えるでしょう。

なお、非常に重要な点として、早産が起こる機序(メカニズム)はまだ完全には解明できていません。このため、現在でも多くの研究が世界中で行われています。

次に、「切迫早産」について説明します。切迫早産とは「早産となる危険性が通常より高いと考えられる状態」ですが、この「危険性が通常より高い」という表現はだいぶ曖昧で、診断時にも「〜%くらいの確率で早産になります」とは言えないのです。そのくらい、事前予測が難しいということになります。

日本の産婦人科医のほぼ全員が参照している「診療ガイドライン」には、早産となる危険性が高い状態として「妊娠22週0日から妊娠36週6日までに、規則的な子宮収縮があって子宮頸管が開いてきている場合、あるいは診察で頸管が2cm以上開いてしまっている場合」というような内容が書かれています(3)。
しかし、実際の診療現場でこの基準を満たすような切迫早産(と診断された)妊婦さんは決して多くないと思われます。その地域の医療体制(新生児集中治療室のある病院かどうかなど)を鑑みて、「かなり広めの診断をしている」のが現状でしょう。

例えば、以下のような状況で「切迫早産」と診断された経験のある女性は少なくないはずです。ところが、海外のほとんどの国ではこのような状況では切迫早産と診断されません。

  • お腹の張りが少し増えてきた(子宮頸管は正常の長さ)

  • エコーで子宮頸管の長さが3cmほどになった(腹痛や出血はない)

  • 自分では気づかないくらいの子宮収縮がモニターで見つかった

どんな人が早産になりやすい?

それでは、どのような人が早産になりやすいのでしょうか。
これまでの研究で、以下のようなものが早産のリスクを高める危険因子と考えられています。

  • 過去に早産歴がある

  • 子宮頸部円錐切除術の経験がある

  • 子宮頸管の短縮や開大

  • 多胎妊娠(双子、三つ子など)

  • 妊娠高血圧症候群(妊娠中の高血圧)

  • 前置胎盤(胎盤が子宮の出口を覆っている)

  • 細菌性腟症

  • 継続的な喫煙やアルコールの摂取

  • 過剰な重労働や夜勤、不規則勤務

これらのうち、自身で回避できるものもあれば、できないものもあります。
大切なのは、回避できるもの(喫煙、アルコール、リスクの高い勤務形態など)をしっかりと回避して、定期的な妊婦健診をきちんと受けることです。

日本における切迫早産への治療法

さて、それでは切迫早産の診断を受けた人は早産のリスクが高いことになるので、何らかの治療や対策をしなければなりません。早産になってしまうことを防ぎたいので、治療の目的は「妊娠期間を延ばすこと」となります。理想的には、妊娠37週を超えたいところです。

日本では、一般的な治療法として以下の手段が検討されます。これらは診療ガイドラインに基づいています。

  • 子宮収縮抑制薬(いわゆる「張り止め」)の点滴投与を開始する

  • 安静を保つ

  • 早産の危険性が高い場合には高次医療施設への紹介または母体搬送をする

このため、非常に早産となるリスクが高いと判断された場合には、大学病院等へ紹介または搬送の上で入院として安静を保つようにし、子宮収縮抑制薬の点滴を24時間継続する、といった形になります。

ところが、この治療方針について日本と他国では大きく異なっている点が少なくありません。端的に言えば、日本の治療方針は残念ながらエビデンスに基づいていないものが多く、かなり特殊な状況となっています。(最近では少しずつ変化しつつありますが、まだこの状況は大きく変わっていないと考えられます。)

ここからは、日本と海外の具体的な違いやデータ、エビデンスを紹介し、私なりの意見もまとめていきます。ご覧いただくには有料登録が必要となります。

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