新しい更年期障害の治療薬が米国で承認!既存治療との違いや注意点を解説
こんにちは。本ニュースレターでは、女性の健康や産婦人科医療に関わるホットトピックや社会課題、注目のサービス、テクノロジーなどについて、産婦人科医・重見大介がわかりやすく紹介・解説しています。「○○が注目されているけど、実は/正直言ってxxなんです」というような表では話しにくい本音も話します。
詳細は以下をご覧ください。
この記事でわかること
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更年期障害が生じる年齢、メカニズム、主な症状、診断基準
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更年期障害に対する基本的な治療法
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米国で承認された新薬とはどんなものか
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この新薬が使えない人
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新薬の副作用
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医療従事者向けの参考文献
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マイオピニオン(総合的な私個人の考えや意見)
更年期障害とは
卵巣の活動が加齢に伴って徐々に弱まり、月経がこない状態が1年間続いた時に、1年前を振り返って「閉経した」と判断します。個人差はありますが、日本の平均閉経年齢は約50.5歳とされており、閉経をはさんだ前後5年間の約10年間のことを「更年期」といいます。
月経は、脳からの指令と卵巣の反応による相互作用で周期的に訪れる仕組みになっています。しかし、卵巣の老化が始まると卵巣から女性ホルモンを十分に出せなくなり、脳と共同で築いてきたホルモンバランスが崩れてしまいます。これに伴って、心身にさまざまな症状が起こってくるものを「更年期症状」と呼びます。女性ホルモンは、月経や妊娠以外にも、脳・血管・骨・関節・泌尿器・皮膚粘膜・コレステロール代謝などに影響しているため、このような全身の症状が出てきてしまいます。
では、「更年期障害」とは何なのでしょうか。
基本的に、更年期に現れるさまざまな症状の中で他の病気が原因でないものが「更年期症状」であり、その中でも症状が重く日常生活に支障を来す状態を「更年期障害」と判断します (1)。
つまり、「更年期に生じた症状によって日々の生活に辛さや何らかの支障がある」とご自身が感じていれば、それは更年期障害と判断されることになります。
更年期障害の従来の治療法は?
更年期の症状は、大きく分類すると以下のように
①自律神経失調症状
②精神的症状
③その他
に分けられます (2)。
① 自律神経失調症状:のぼせ・発汗・ホットフラッシュ・動悸・頭痛・めまい・肩こりなど② 精神的症状:情緒不安定・イライラ・抑うつ気分
③ その他:運動器症状(腰痛・筋肉痛・関節痛・手のこわばり・むくみ・しびれなど)消化器症状(吐き気・食欲不振・腹痛・便秘・下痢など)皮膚粘膜症状(乾燥・湿疹・かゆみなど)泌尿生殖器症状(排尿障害・頻尿・性交痛・外陰部のかゆみ・腟乾燥感など)
これらの症状に対して、現在でもさまざまな治療法が存在しています。まず、生活習慣の改善や心理療法を試みて、それでも改善しない症状に対して治療薬を使用します (1)。更年期障害に使用する薬は大きく3種類に分けられます (1, 3)。
① ホルモン補充療法(HRT)
少量のエストロゲンを補う治療法で、ほてり・のぼせ・ホットフラッシュ・発汗などに特に有効ですが、その他の症状にも有効です。また、脂質異常の改善や皮膚のコラーゲン量を増やしたり、皮膚のきめ細やかさの改善効果もあります。さらにはアルツハイマー病、動脈硬化の予防や食道癌、胃癌などの発生リスクを下げる効果もあると考えられています。
HRTで最も簡便なものは「貼り薬」です。2日に1回(ただし人によって幅があります)張り替えることで、薬の効果を保つことができます。ただ皮膚が弱くかぶれやすいという人には向かないため、「飲み薬」や「塗り薬」を使う場合もあります。外陰部や腟の症状(性交痛など)に特に困っている患者さんには「腟錠」を使用することもあります。
② 漢方薬
漢方薬は全体的な心と体のバランスの乱れを整えることが期待できます。またホルモン治療薬ではないため、ホルモン補充療法が受けられない人(肝臓の病気がある、乳癌・静脈血栓塞栓症・心筋梗塞の治療中または既往があるなど)にも使用できます。
更年期症状・障害に使われる代表的な漢方薬が3種類あり、比較的体力が低下していて冷え症で貧血傾向がある方に対しては「当帰芍薬散」を、比較的体質虚弱で疲労しやすく不安・不眠などの精神症状を訴える方に対しては「加味逍遥散」を、体力中等度以上でのぼせ傾向にあるような方に対しては「桂枝茯苓丸」がよく処方されます。
③ 向精神薬
精神的な症状(気分の落ち込み、意欲低下、イライラ、情緒不安定、睡眠障害など)が最もつらい場合には、抗うつ薬・抗不安薬・催眠鎮静薬などの向精神薬も使用されます。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)などの比較的新しい抗うつ薬は副作用が少なく、更年期の女性にとっての強い味方でしょう。