多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は性欲や性行為、自信にも影響する? 最新の研究からわかってきたこと
本ニュースレターでは、女性の健康や産婦人科医療に関わるホットトピックや社会課題、注目のサービス、テクノロジーなどについて、産婦人科医・重見大介がわかりやすく紹介・解説しています。「○○が注目されているけど、実は/正直言ってxxなんです」というような表では話しにくい本音も話します。
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多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と聞くと、月経不順、妊娠しにくさ、にきび、多毛、体重や血糖の問題を思い浮かべる方が多いかと思います。しかし、PCOSが影響しうるのは、どうやら月経や妊娠だけではないようなのです。
2026年に公開された研究論文(文献1)では、PCOSのある女性とPCOSのない女性を比べ、性機能の問題や性に関する自己評価、抑うつとの関連が分析されました。
本記事では、この研究で示されたこと、まだわかっていないことなどを整理し、皆さんの日常生活や受診にどう生かせるかを産婦人科医の立場から解説します。ぜひ最後までご覧ください。
この記事でわかること
PCOSはどんな病気か
PCOSが月経や妊娠以外に与える影響
「性欲が低い」ことと性機能障害の関連
2026年の研究報告でわかってきたこと:苦痛を感じる性機能障害、性欲、身体イメージなど
低用量ピルを使っていることの影響
日常生活でできる5つの工夫
マイオピニオン(総合的な私個人の考えや意見)
PCOSってどんな病気?
PCOSは、生殖年齢にある女性のおよそ10~13%にみられるホルモン関連疾患です。排卵が不規則になること、男性ホルモン(アンドロゲン)の作用が強く現れることなどを背景に、月経不順や無月経、にきび、多毛、頭髪の薄毛、妊娠しにくさなどが生じます(症状の現れ方には個人差があります)。
この研究(文献1)で採用された国際的なRotterdam診断基準では、他の病気を除外したうえで、
①アンドロゲン過剰の所見
②排卵障害
③超音波検査での多嚢胞性卵巣所見
のうち2つ以上を満たすかどうかで診断されました。
なお、日本では国内の「日本産科婦人科学会による診断基準(2024年)」が用いられており、国際的なRotterdam診断基準とは運用が少し異なっています。また、月経状況や外見だけで診断することはできません。(文献2)
*以下の記事もご参照ください。
PCOSは月経や妊娠だけの問題ではない
PCOSでは、2型糖尿病、脂質異常症、睡眠時無呼吸、子宮内膜増殖症のリスク増加などにも注意が必要です。同時に、生活の質、気分、身体イメージにも影響が及びます。
世界保健機関(WHO)では、PCOSのある女性では不安、抑うつ、摂食障害、否定的な身体イメージなどがみられやすく、不妊、体重、多毛などへの社会的な偏見が、家族関係、仕事、社会とのつながり、心の健康にまで影響しうると説明しています。(文献3)
ここで大切なこととして、これらを「ホルモンのせいだ」と安易に片付けてしまうのは良くないと私は考えています。
PCOSの症状そのもの
治療
妊娠への不安
周囲の無理解
容姿をめぐる社会的圧力
パートナーとの関係
過去の体験
疲労や睡眠
など、多くの要素が存在し、相互に影響していることがほとんどです。「ホルモンのせいだ」と原因を1つだけに絞る方がすっきりした気になりやすいですが、問題の解決のために必ずしも良いとは限らないだろうと思っています。
「性欲が低い」だけでは性機能障害ではない
性機能には、性的な関心や欲求、興奮、腟の潤滑、オーガズム、痛み、全体的な満足感など、複数の側面があります。どのくらいの頻度で性的欲求が生じるか、性行為をするかに「正常値」があるわけではありません。
性行為を望まないこと、パートナーがいないこと、一人での性的行動(マスターベーション)をしないこと自体はもちろん病気ではありません。
WHOの「性の健康」の考え方は、単に病気や機能障害がない状態ではなく、「身体的・感情的・精神的・社会的に良好な状態」と捉えています。そこには、安全で、強制や差別、暴力がなく、互いを尊重できることも含まれます。
つまり、性行為の回数や「うまくできるか」よりも、本人がどう感じ、自由に選べているかが重要だということですね。
今回の研究でも、研究者は性機能の質問票だけでこの辺りを判断してはいません。女性性機能指数(FSFI)が基準値を下回り、かつ性に関する苦痛を測る尺度(FSDS-R)が基準値以上である場合を「性機能障害」と定義しました。
満足度や欲求が低めでも、本人が困っていなければ、直ちに「性機能障害」として治療対象になることはありません。反対に、スコアだけで正式な診断もできません。論文の著者らも、臨床診断には丁寧な問診や情報取得が必要なことを強調していました。
*以下の記事もご参照ください。
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