セックスレスを徹底解説! 〜頻度、原因、対策、最新の研究紹介〜
本ニュースレターでは、女性の健康や産婦人科医療に関わるホットトピックや社会課題、注目のサービス、テクノロジーなどについて、産婦人科医・重見大介がわかりやすく紹介・解説しています。「○○が注目されているけど、実は/正直言ってxxなんです」というような表では話しにくい本音も話します。
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この記事でわかること
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セックスレスとはどういうものか
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日本におけるセックスレスの実態
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海外におけるセックスレスの捉え方
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セックスレスの主な原因
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薬とセックスレスの関連
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セックスレスの対処法【サポートメンバー限定】
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研究紹介:性的コミュニケーションの影響と重要性、具体策【サポートメンバー限定】
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研究紹介:男性パートナーの欲求低下への対処法【サポートメンバー限定】
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マイオピニオン(総合的な私個人の考えや意見)【サポートメンバー限定】
セックスレスとはどういうもの?
セックスレスとは、一般的に「特殊な事情が認められないにもかかわらず、カップルの合意した性交あるいはセクシャル・コンタクトが1ヶ月以上なく、その後も長期にわたることが予想される場合」を指します。
*セクシャル・コンタクトとは、性器の挿入だけではなくオーラルセックス、ペッティング、ベッドで裸で抱き合うなどの性行為全般のことです。
この定義は、日本性科学会によって示されています。しかし、実際には各カップルの状況や感じ方によって、セックスレスの捉え方は異なることがありますし、国によっても扱いが異なる部分があります。
日本では、もともとの文化的背景から、カップル(夫婦を含む)間でのセックスの頻度があまり高くないことが指摘されており、それを各個人がどのくらい苦痛に感じているかというのも大事なポイントです。
日本におけるセックスレスの実態
国内で実施された調査(「【ジェクス】ジャパン・セックスサーベイ2024」)では、以下の結果が報告されています。
*全国18~69歳の男女5029人を対象に、性への関心や悩み、性生活の実態などを聞き取った調査
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男女ともに6割以上が「この1ヶ月間、性行為がなかった」と回答した
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「1ヶ月以上、夫婦間で性交渉がない」と答えた割合は64.2%だった(令和2年の前回調査の51.9%から大きく上昇。20年前に比べて2倍以上になっている。)
1について、直近1ヶ月にセックスしたかどうかは、かなり人によって差があるのは当然ですよね。ただ、時代の変化や他国との違いがあるのも事実で、これが今の日本の現状なんだなと俯瞰して考えることに意味はあると思います。
2について、これはまさにカップル間(この調査では夫婦に限定して聞いています)でのセックスレスの割合を示していますね。およそ2/3組はセックスレスの状態である。これが日本の夫婦の現状だと言えるでしょう。もちろん、年に数回でも満足しているカップルもいると思いますし、もう性的関係はお互い求めていないというケースもあるでしょうから、最終的には「カップル、もしくはどちらかが、その状態を苦痛に感じているかどうか」が重要になってきます。
海外におけるセックスレスの捉え方
それでは、海外ではどうなのでしょうか。海外と言っても多様すぎるので、例えば欧州や米国を例にしてみます。文化的背景や社会的価値観の違いがあるため、日本とは異なる捉えられ方やアプローチが取られています。
欧州
ドイツを含むヨーロッパ諸国では、セックスレスの夫婦があまり話題に上ることは比較的少ないとされています(もちろん国によります)。これは、セックスが生活の基本と捉えられており、カップルや夫婦の愛情確認として不可欠と考えられている傾向があるためです。そのため、セックスレスになること自体が日本と比べて少ない傾向にあります。
ただ、近年では「性に積極的だ」というイメージを持たれがちなフランスでも、夫婦間で相手に「性行為をしたくない」と言うことがタブー視されてきた状況が実はあったと言われてきており、「関心は薄くなっていたけどセックスレスの状態を認めることが良しとされていなかった」部分が文化的にある・あったのかもしれません。日本とはまた異なるタブーや悩みですね。
米国
米国では、セックスレスは夫婦間の重要な問題と認識されており、専門家への相談やカウンセリングが一般的な対処法とされています。性に関する話題がオープンに議論される文化が比較的根付いており、問題解決のためのリソースも豊富だと言えるでしょう。
また、セックスレスが離婚の一因とされるケースもあり、夫婦間でのコミュニケーションや専門家の介入が重視されている印象です。
非常にざっくりした他国の紹介なのでこれが全てでは全くないです。あくまでも参考としていただければ幸いです。(今回の記事の主題ではないのでこのくらいに留めておきます)
セックスレスの主な原因は?
セックスレスの原因は多岐にわたり、カップルごとに異なります。主な要因として以下の点が挙げられます。
1. 忙しさと疲労
現代社会では、仕事や家事、育児などで多忙な日々を送る方が多く、心身の疲労が蓄積し、性的な関心が薄れることがあります。特に、育児や家事の負担が増えることで、性的な関心が薄れる傾向があり、これはまだまだ女性側に多い要因と言えるでしょう。
2. 性欲の低下
年齢やホルモンバランスの変化、ストレス、健康状態の影響で、性欲が減退することがあります。特に、妊娠や出産、育児による影響は大きいでしょう。また、後述しますが薬による影響によって性欲が低下することもあります。
3. パートナーからの拒否経験・過去のネガティブな体験
過去にセックスを求めた際に断られた経験があると、再度誘うことに躊躇し(ネガティブな気持ちが蘇ってまた断られることに恐怖心を抱く)、結果としてセックスレスになることがあります。
また、過去に性被害を受けた経験があったり、パートナーにひどい扱いをされた経験があったりすると、性行為全般にネガティブになることもあります。こうしたことはとても長期的に影響を及ぼすので、性加害や性暴力は本当に許せません。
4. コミュニケーション不足
性的な欲求や不満をパートナーときちんと共有できないことで、お互いの気持ちがすれ違い、ストレスを抱え、そのまま問題が解決されず、セックスレスに陥ることがあります。
5. 身体的・心理的要因
勃起不全(ED)や腟の乾燥などの身体的な問題、過去のトラウマや心理的なストレスが原因で、性的な関係を避けることがあります。女性側ではさまざまな原因で性交痛が生じることがあり、これが原因でセックスレスになっているケースも少なくありません。
6. マンネリ化
セックスの方法や順番などが決まり切ったものに感じられ、雰囲気作りも特になくなり新鮮さを失うことで、セックスに対する期待感が薄れ、あえてしたいと思う気持ちがなくなってしまうことも原因の一つでしょう。人間は「慣れ」を早期に獲得する特徴を持っていますので、何事にも「マンネリ化」が起きてしまいますよね。
これらの要因は単独のこともありますが、多くの場合には複合的に絡み合ってセックスレスの原因となるようです。まず大切なのは、お互いの気持ちや状況を理解し、カップルで一緒に解決策を模索していくことなのでしょう。
薬とセックスレスの関連
薬剤の副作用として性欲低下が生じることがあります。
ずっと飲み続ける薬の場合には、この副作用を知らずにいると悩みが解消されない可能性があるので、まず知っておくこと、担当医にきちんと聞いておくことが大事です。
抗うつ薬
特に選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)は、性欲低下や勃起(興奮)障害、オーガズム障害などの性機能障害が7~8割と高い頻度で生じるとされています。
なお、うつ病の症状そのもので性欲低下が起こっている可能性もあるので注意が必要です。
降圧薬
血圧を下げる降圧薬の一部も性欲低下の原因となることがあります。種類によっても影響が異なりますが、利尿薬、ベータ遮断薬、交感神経抑制薬、カルシウム拮抗薬などは勃起不全(ED)を引き起こす可能性があります。
なお、高血圧の状態が続くこと自体が男性の勃起不全の原因にもなることに注意が必要です。
低用量ピルなどのホルモン剤
低用量ピルなどのホルモン剤は、避妊や月経困難症の改善、乳がんの治療など多くの利点がありますが、一部の方に性欲の低下が見られることがあります。これは、ピルに含まれるエストロゲンやプロゲステロンが体内のホルモンバランスに影響を及ぼし、特に男性ホルモンであるテストステロンの抑制を通じて性欲に影響を与える可能性があるためと考えられています(女性の体内にもテストステロンはあるのです)。
しかし、ホルモン剤を使うすべての人で性欲が低下するわけではなく、かなり個人差があります。また、ピルの種類によっても影響は異なります。例えば、マーベロンやファボワールなどは第三世代ピルと呼ばれ、男性ホルモンの抑制効果が高いため性欲低下を引き起こしやすいとされています。
なお、逆に、低用量ピルによって月経関連症状が改善し、心身の状態が良くなったことで、性欲が向上したり性行為に前向きになったりするケースもあります。