片頭痛のある女性と低用量ピル:リスクに関する最新論文を読んでみた
本ニュースレターでは、女性の健康や産婦人科医療に関わるホットトピックや社会課題、注目のサービス、テクノロジーなどについて、産婦人科医・重見大介がわかりやすく紹介・解説しています。「○○が注目されているけど、実は/正直言ってxxなんです」というような表では話しにくい本音も話します。
今回はサポートメンバー限定記事です。最後までご覧になりたい方はサポートメンバー登録をお願いいたします。

「片頭痛があると、ピルは飲めないのでしょうか」
「月経痛を楽にしたいけれど、頭痛もあるので心配です」
ピルを検討するとき、こうした不安や疑問を持つ方は少なくないと思います。すでに服用していて、頭痛との関係が気になっている方もいるでしょう。
片頭痛も月経のつらさも、仕事や学業、日常生活に影響します。避妊の必要性や、通院のしやすさも人それぞれです。薬のリスクを考える際には、こうした生活の背景も考えなければいけません。
今回は、2026年に発表されたばかりの、「片頭痛のある人のピル使用と脳卒中の関係」を調べた論文を読んでみたので、わかりやすく解説していきます。頭痛の種類や、日本で使われる薬の注意事項も整理していきますのでぜひご覧くださいね。
この記事でわかること
頭痛の種類、片頭痛の特徴
片頭痛のある人へのピル処方が慎重になる理由
今回の研究論文の概要
気になる研究結果:実際の脳梗塞発症率、ピルによる違い
結果をどう解釈すれば良いのか、片頭痛があっても服用できるのか
マイオピニオン(総合的な私個人の考えや意見)
その頭痛はどのタイプ?まず知っておきたい片頭痛と「前兆」について
片頭痛は、「ズキズキする痛みや吐き気、光や音への過敏さなどを伴う頭痛」のことです。「片」という字が入りますが、必ず頭の片側だけが痛むわけではありません。痛みの強さだけで自己判断せず、症状の組み合わせや経過から診断することが大切です。
ピルとの関係を考えるうえで、特に確認したいのが「前兆」の有無です。
代表的なのは、視界にギザギザした光が広がり、その一部が見えにくくなる「閃輝暗点(せんきあんてん)」です。手や顔のしびれ、言葉の出にくさなどが現れる場合もあります。
典型的には徐々に症状が広がり、一つひとつの症状は5〜60分ほどで治まります。ただし、例外もあり、この時間だけで診断はできません。
なお、ここでいう前兆は、頭痛の前に感じる眠気やあくび、肩こりなどの「予兆」とは区別されます。また、前兆の後に頭痛が起こらない場合もあるため、「そのときは頭が痛くなかった」という経験も診察では伝えるようにしてくださいね。
日本の主なエストロゲン・黄体ホルモン配合ピルでは、「前兆のある片頭痛がある場合」について、添付文書に次のように記載されています。これは、避妊用の経口避妊薬と、月経困難症などの治療に使うピル(LEP)の、どちらにも関係する重要な注意点です。
トリキュラー錠28:禁忌(投与しない)
マーベロン21・28:禁忌(投与しない)
ルナベル配合錠LD・ULD:禁忌(投与しない)
ヤーズ配合錠・ヤーズフレックス配合錠:いずれも禁忌(投与しない)
ジェミーナ配合錠:禁忌(投与しない)
ちなみに、「禁忌」は、単に少し注意すればよいという意味ではなく、その条件に当てはまる人には「投与しない・できない」という位置づけです。「超低用量なら大丈夫」「避妊ではなく月経痛の治療なら使える」とはなりません。
一方、「前兆のない片頭痛がある場合」は、これらの添付文書では「注意を要する状態」として扱われていて、「禁忌」とはなっていません。なお、頭痛のある人すべてが同じ扱いになるわけではありませんので誤解しないでくださいね。
*以下の過去記事もご参照ください。
なぜ、片頭痛のある人へのピル処方は慎重になるの?
その背景にあるのが、脳の血管が詰まる「脳梗塞」への懸念です。
脳卒中には、血管が詰まるタイプと出血するタイプがあり、今回の研究が主に調べたのは前者、医学用語でいう「虚血性脳卒中」です。
これまでの研究では、前兆のある片頭痛自体が脳梗塞のリスクと関連し、エストロゲンを含むピルの使用もリスク上昇と関連すると報告されてきました。このため、両者が重なる場合の処方には慎重な判断が必要とされてきたのです。
*片頭痛の発作が起こるたびに脳梗塞が起きている、という意味ではありません。
なお、ピルの副作用でよく耳にする「血栓症」には、脚の静脈に血の塊ができる「深部静脈血栓症」や、それが肺の血管を詰まらせる「肺塞栓症」もあります。これらと脳梗塞はどちらも重大な病気ですが、起こる血管や背景が異なります。
一方、従来の「前兆のある片頭痛を持つ場合にピルは使えない」という根拠には、現在よりエストロゲン量が多い製剤を使っていた時代の研究も含まれています。
よって、
「今よく使われる製剤ではどうなのか」
「実際にエストロゲンを含まない経口避妊薬を飲む場合と、どの程度違うのか」
今回の研究は、こうした疑問をもとに実施されたものになります。
今回の論文はどんな研究をしたの?
今回読んでみたのは、産婦人科では代表的な医学雑誌に2026年8月に掲載された論文です。(文献1)
英国の診療記録と、それに連結された入院情報を用いた観察研究で、2000〜2024年に、対象となる経口避妊薬の使用を開始した15〜49歳のうち、「前兆のある片頭痛あり」と記録されていた54,413人を分析しました。過去1年間に対象となる経口避妊薬の使用がない人を選んでおり、初めて使う人だけでなく、期間を空けて再開した人も含まれています。
比較したのは、エストロゲンと黄体ホルモンを含む混合型ピル(COC)を飲み始めた12,429人と、エストロゲンを含まない黄体ホルモン単独ピル(POP)を始めた41,984人です。混合型ピル群の約98%は、エチニルエストラジオールが35マイクログラム以下の製剤を処方されており、最も多かったのは30マイクログラムでした(日本ではマーベロン、ルナベル配合錠LDやフリウェル配合錠LDがこれらに該当します)。
提携媒体
コラボ実績
提携媒体・コラボ実績
