PCOSからPMOSへ:名称が変わる意味と、必ず知っておきたいこととは?
本ニュースレターでは、女性の健康や産婦人科医療に関わるホットトピックや社会課題、注目のサービス、テクノロジーなどについて、産婦人科医・重見大介がわかりやすく紹介・解説しています。「○○が注目されているけど、実は/正直言ってxxなんです」というような表では話しにくい本音も話します。
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「PCOS」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
日本語では「多嚢胞性卵巣症候群」と呼ばれ、月経不順、排卵障害、不妊、にきび、多毛、体重増加などと関係する病気として知られています。産婦人科の診療でも比較的よく出会う疾患です。
ところが、このPCOSという名称が、国際的に見直されようとしています。
2026年5月にThe Lancetという有名な医学誌に掲載された論文(文献1)では、PCOSの新しい名称として 「PMOS:polyendocrine metabolic ovarian syndrome」が提案され、国際的な合意形成の過程が報告されました。
一見すると、「病気の名前が変わるだけ」と思うかもしれません。しかし、これには重要な意味が含まれています。
この名称変更について、元の論文を紐解き、どういった意味があるのが、そして必ず知っておきたいことを整理しました。ぜひ最後までご覧ください。
約8000文字での解説となっており、非医療者の方々にとっても、女性の健康に携わる医療従事者の方々にとっても、役立つ内容になっていると思います。
この記事でわかること
なぜ「PCOS」という名前は見直されることになったのか
PCOSは「卵巣だけの病気・異常」ではない理由
新しい名前「PMOS」に込められた意味
名称変更は診療や研究に何をもたらすのか
PCOS/PMOSと診断された女性に知っておいてほしいこと
マイオピニオン(総合的な私個人の考えや意見)
なぜ「PCOS」という名前は見直されることになったのか
PCOSは、8人に1人の女性が有しているとされている疾患で、英語ではpolycystic ovary syndromeと呼ばれてきました。日本語の「多嚢胞性卵巣症候群」も、この英語名をもとにしています。言葉だけを見ると、「卵巣にたくさんの嚢胞ができる病気」という印象を受けますよね。
しかし、実はここに、今回名称変更を検討された大きな理由があります。
PCOSで超音波検査を行うと、卵巣の中に小さな卵胞が複数見えることがあります。これは、排卵に向けて発育する途中の卵胞が多数みられる状態であり、一般的に「卵巣嚢腫」などで問題になる病的な嚢胞とは意味が異なります。
論文でも、PCOSという名称は「卵巣に多発する嚢胞」が病気の本質であるかのような誤解を招き、実際の病態を正確に反映していないと指摘されています。

文献2より引用。左図がPCOSの女性でよく見られる卵巣の状態です。多数ある黒い丸が嚢胞です。
この誤解は、患者さんにとっても医療者にとってもネガティブな部分があると考えられます。
たとえば、「卵巣に嚢胞があると言われた」と聞くと、腫瘍や手術を連想して強い不安を感じる人もいます。一方で、超音波で典型的な所見がはっきりしない場合に、「卵巣が多嚢胞ではないからPCOSではない」と誤って受け止められる可能性もあります。
実際のPCOSは、卵巣の見た目だけで決まる病気ではありません。
成人では、他の疾患を除外したうえで、
排卵障害または月経不順
臨床的または血液検査でのアンドロゲン過剰またはLH高値
超音波での多嚢胞性卵巣所見またはAMH高値
といった要素を組み合わせて診断します。
思春期では診断基準(疑う所見)がさらに慎重となっていて、排卵障害または月経不順とアンドロゲン過剰の両方が必要とされています。
つまり、PCOSという名前は、診断の一要素にすぎない「卵巣のエコー上の見え方」が前面に出すぎている、ということですね。
その結果、PCOSの本質である内分泌異常や代謝異常がイメージされにくくなり、診断の遅れ、患者さんの誤解や不満、医療者間の認識のばらつきにつながってきた可能性があります。論文(文献1)では、PCOSのある人の最大70%が未診断のままであることにも言及されています。
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