赤ちゃんを感染症から守るために 〜近年わかってきた妊娠中の驚きの仕組み〜

今回は、妊娠中に母親の体内でどのような免疫機構の変化が起こり、それがどのように赤ちゃんを守るのかについて、研究論文をベースに解説します。
重見大介 2024.09.19
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「免疫」という言葉はもともと学術的な用語でしたが、最近では一般的にも使われるようになっています。私たちの体には、病原体や外部からの侵入者から身を守るための「免疫系」という防御システムがあります。免疫系は、日々私たちを細菌やウイルスなどの病原体から守るために働いています。

今回は、妊娠中に母親の体内でどのような変化が起こり、それがどのように赤ちゃんを守るのかについて、研究論文をベースに解説します。

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この記事でわかること

  • 免疫系の基本的な仕組み

  • 生まれたばかりの赤ちゃんの免疫はどのようになっているか

  • 近年わかってきた妊娠中の驚きの仕組み

  • マイオピニオン(総合的な私個人の考えや意見)

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免疫系の基本的な仕組みはどうなっているの?

人間の免疫系は大きく分けて「自然免疫」と「獲得免疫」の2つのシステムから成り立っています。それぞれのシステムには異なる役割と機能があります。

自然免疫

自然免疫とは、私たちの体が生まれながらにして持っている、病原体に対する防御システムです。これは特定の病原体に対してだけでなく、幅広い異物に対して迅速に反応し、感染が拡大するのを防ぐ役割を果たします。特定の病原体に対するものではないため、「非特異的免疫」とも呼ばれます。

自然免疫は、物理的なバリアや免疫細胞、分子の働きによって構成されています。

1. 物理的バリア

  • 皮膚や粘膜:これらは物理的なバリアとして、病原体の侵入を防ぎます。皮膚は外界と体内を隔てる最初の防御ラインであり、粘膜は呼吸器や消化器の入り口で病原体を捕らえます。

2. 免疫細胞

  • マクロファージ:細胞内に侵入した病原体や、死んだ細胞を取り込み、破壊します。

  • 好中球:血液中に存在し、感染が発生すると病原体を捕食して破壊します。

  • 自然リンパ球(NK細胞):ウイルスに感染した細胞や腫瘍細胞を直接攻撃して破壊します。

3. 分子レベルの防御

  • サイトカイン:病原体が体内に侵入すると、主に感染部位の細胞から分泌され、炎症を引き起こし、免疫細胞を集め、病原体をやっつけます。

  • 補体系:血液中のタンパク質が連携して病原体を識別し、直接攻撃するか、他の免疫細胞に目標を提示し、攻撃を促します。

獲得免疫

獲得免疫は、私たちの体が、特定のウイルスや細菌などの病原体を学習し、「攻撃方法」を記憶するシステムです。この免疫は、病原体に初めて接触した時にはまだ存在しないため、できるのに数日から数週間かかりますが、同じ病原体に再び接触した場合には迅速に反応します。

獲得免疫の中心となるのが、「抗体」と「T細胞」です。「抗体」は主に細胞の外部に存在する病原体と戦い、排除する役割を果たします。これに対して「T細胞」は細胞内の病原体や感染した細胞を攻撃して排除します。

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