子宮移植、国内初の臨床研究開始へ 〜その技術と課題を考える〜

国内初の臨床研究が開始されようとしている子宮移植。この新たな治療技術の現状と課題について、最新の知見をもとに考えてみます。
重見大介 2025.04.11
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生まれつき子宮を持たない女性にも「自分の子」を産む道が開けるかもしれない。

国内で初めて子宮移植の臨床研究計画が承認され、海外で徐々に実績を積みつつある医療技術が日本でも動き出そうとしています​。一方で、子宮移植は命を救うためではなく子を授かるための移植であり、医療的リスクや倫理的課題も伴います。

この新たな治療技術の現状と課題について、最新の知見をもとに、私なりにできるだけフラットに考えてみます。全文で1万字を超えていますが、ぜひ最後まで読んでいただけると嬉しいです。

この記事でわかること

  • 子宮移植とはどのような治療技術か

  • 世界的な研究報告の概要

  • 日本国内での最近の動向

  • 日本で研究が進められることについての期待と注意点

  • 社会としてどう考え向き合っていくべきなのか

  • マイオピニオン(総合的な私個人の考えや意見)

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子宮移植とはどのような治療技術なのか

子宮移植の意味と特徴

子宮移植とは、健康なドナー(提供者)から提供された子宮を、子宮が「無い」か「本来の生理的機能を有しない」レシピエント(移植を受ける人)に移植し、その子宮を用いて妊娠・出産を目指す医療技術です。

子宮は心臓や腎臓のような生命維持に必須の臓器ではありませんが、生殖に不可欠な役割を担っています。つまり、「自身の命を保つための臓器ではなく、次の命を生み出すための臓器」という特殊性があります。子宮移植の目的は、移植した子宮がうまくくっつくだけでなく、その先に健康な子どもを得ることにある点で、他の臓器移植と異なる特徴を持つと言えるでしょう。

対象者

対象となる人は、「子宮性不妊症」と呼ばれる状態の女性です。これは、子宮が先天的に欠如しているか、病気などで子宮を摘出したため妊娠が不可能な方が含まれます。

先天性の例としては、生まれつき子宮や腟がないロキタンスキー症候群(MRKH症候群)や子宮発育不全などがあります。MRKH症候群は約5000人に1人の発症率とされています。
後天性では子宮の悪性腫瘍などの治療で子宮摘出を余儀なくされた場合、あるいは重度の癒着(アッシャーマン症候群)で子宮の機能が失われてしまった場合などが挙げられます。(資料1)

こうした子宮性不妊の女性は、自分の卵巣から採取した卵子を使っても子宮が無ければ妊娠・出産はできず、従来は代理母(第三者の子宮を借りる代理出産)や養子を迎える以外に遺伝上の子を持つ術がありませんでした。しかし、日本では代理出産は公的に認められておらず、養子も選択肢として簡単ではない現状において、子宮移植は本人が妊娠・出産を経験できる新たな不妊治療の選択肢になるのです。これは、同様の状況にある海外の国でも同様でした。

具体的な治療の内容

技術的な背景としては、体外受精(IVF)の普及や移植外科の進歩が大きいと考えられます。

まずレシピエント本人の卵子と配偶者(男性パートナー)の精子で体外受精を行い、受精卵(胚)を凍結保存しておきます。その後、ドナーから子宮を摘出してレシピエントに移植します。なお、レシピエント自身の卵巣からホルモン分泌があるため、卵巣は移植しません。

子宮の血管は細く複雑であり、移植には顕微鏡下での高度な血管吻合技術を要します。移植が成功して子宮が生着すれば、免疫拒絶反応を抑える薬を服用しつつ経過を観察し、問題なければ凍結しておいた受精卵を移植された子宮に戻します(胚移植)。

妊娠が成立すれば、その後は慎重な管理下で妊婦健診を続け、最終的に帝王切開で出産するのが一般的です。出産後、レシピエントが希望すれば子宮を摘出して元の状態に戻します。この場合、免疫抑制剤の投与も中止できるため、一生薬を飲み続ける必要がある通常の臓器移植とは異なり、一時的な移植と位置付けられるます。

このように、子宮移植は高度生殖医療と臓器移植医療を組み合わせた複合的な技術と言えるんですね。

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