「分娩費用の保険適用化」について思うこと
こんにちは。本ニュースレターでは、女性の健康や産婦人科医療に関わるホットトピックや社会課題、注目のサービス、テクノロジーなどについて、産婦人科医・重見大介がわかりやすく紹介・解説しています。「○○が注目されているけど、実は/正直言ってxxなんです」というような表では話しにくい本音も話します。
詳細は以下をご覧ください。
今回は「有料登録者限定」のニュースレターです。
この記事でわかること
-
現在の分娩費用と地域による違いについて
-
保険診療となる分娩の種類
-
「分娩費用の保険適用化」が起きるとどうなるのか(妊婦さんの自己負担額の変化、医療機関側の視点、国側の視点)
-
「分娩費用の保険適用化」に伴う課題の解決策
-
マイオピニオン(総合的な私個人の考えや意見)
現在の分娩費用について
まずは現時点での分娩費用の仕組みについて確認しておきましょう。
日本では、正常分娩で出産した場合の費用には健康保険が適用されず、自己負担となっています。つまり、自費診療の扱いであるため、各医療機関が分娩費用を各自で設定しています。
分娩費用は医療機関だけでなく地域によっても傾向が異なります。厚生労働省の資料によれば、各都道府県における分娩費用には結構な差があり、最も平均値が高いのは東京都(55万円3千円)、低いのは佐賀県(35万1千円)という結果でした。
厚生労働省. 出産費用の実態把握に関する調査研究(令和3年度)の結果等について(令和4年)
分娩費用の差にはさまざまな要素が影響しており、前述の資料では「地域の所得水準や物価、医療費水準、私的病院の割合、妊婦年齢等」が分娩費用の増加や地域差の要因となっていた、と書かれています。
加えて、分娩にかかる費用は徐々に高くなっていることもデータで示されています。
通常、医療は年々進歩していくものであり、それに伴ってかかる医療費はだんだんと増加していく傾向にあります。分娩についても、出産時の合併症予防対策や、少しでも希望通りの出産を迎えられるような工夫に注力しており、一定の人件費や医療材料費がかかることはご理解いただきたいと思います。
厚生労働省. 出産費用の実態把握に関する調査研究(令和3年度)の結果等について(令和4年)
なお、異常分娩(吸引分娩や鉗子分娩、帝王切開)は基本的に健康保険の対象となるので、入院費や手術(処置)料などは3割負担となります。 入院中の食事代や差額ベッド代は自己負担(自費)です。
そして、出産に伴う自己負担軽減のため、国からは「出産育児一時金」が支給されます。
「出産育児一時金」とは、健康保険法等に基づく保険給付として、健康保険や国民健康保険などの被保険者またはその被扶養者が出産したときに支給され、現在は原則42万円となっています。
この「出産育児一時金」は、分娩費用と同様に、年々少しずつ増加してきたという経緯があります。
厚生労働省. 出産費用の実態把握に関する調査研究(令和3年度)の結果等について(令和4年)
「分娩費用の保険適用化」はどういうことか
それでは、「分娩費用の保険適用化」はどういうことかを改めて考えてみましょう。