男性へのHPVワクチン 〜基本情報から最新論文解説まで〜

国内外で女性を主対象として推奨されているヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン。実は、男性にも接種するメリットがあり、海外では男子への接種を広めるため公費補助する国が多くあります。今回は男性へのHPVワクチンについて徹底解説します。
重見大介 2024.03.13
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ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンをご存知でしょうか。主に子宮頸がんの原因となるHPVの感染を防ぐワクチンであり、日本でも積極的勧奨がされているものです。

女性自身が接種することで、子宮頸がんの発症を大幅に防ぐだけでなく、前がん病変である子宮頸部異形成も防げますし、性感染症の一つである尖圭コンジローマ予防にもなります。

一方で、男性への接種も多くの国で推奨されていることをご存知でしょうか。
今回は、基本情報から近年の3つの論文解説まで含め、徹底解説します。

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この記事でわかること

  • 男性がHPVワクチンを接種する意味

  • 男性はHPVワクチンを接種できるのか(承認、費用)

  • 男子へのHPVワクチン接種費用助成を独自にしている自治体

  • 男性への接種に関する海外の状況

  • 近年の論文からわかってきたこと:有効性や安全性、持続性の最新データ

  • マイオピニオン(私個人の考えや意見)

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男性がHPVワクチンを接種する意味

まずは、男性がHPVワクチンを接種する意味について確認しておきましょう。

自分自身のがん予防

HPVは、子宮頸がんだけでなく、咽頭(のど)、陰茎、肛門などにできるがんの原因となることが知られています。そして、咽頭がんの中で特に「中咽頭がん」の発生にはHPVが大きく関わっているとされていて、この「中咽頭がん」の発症は男性にとても多いことがわかっています。

特に中咽頭がんは重要で、米国での報告では、HPVが原因となるがんのうち、男性の中咽頭がん(年間12,000〜13,000人程度)は女性の子宮頸がん(年間11,000〜12,000人程度)よりも多いというデータがあります(文献1)。

つまり、男性が接種することで、自分自身の咽頭がんや陰茎がん、肛門がんの予防に繋がります。

自分自身の性感染症予防

尖圭(せんけい)コンジローマという病気があります。これは主にHPVが原因となって発症し、陰茎に「ボツボツしたできもの」がたくさんできてしまう性感染症で、かゆみや痛みを伴うこともあります。

自然に治ることもありますが、多くの場合には、治療(クリームや切除など)が必要になります。そして厄介なことに、一度の治療ではなかなか治らず、長期間にわたって治療を続けなければならないことも少なくありません。

HPVワクチンは、この尖圭コンジローマの発症予防にも役立ちます。

パートナーへHPVを移さなくなる

男性自身がHPVワクチンを子どものうちに接種しておくことで、子宮頸がんのリスクとなるようなHPVに自分自身が感染することを防ぎ、それが将来の性的パートナーにHPVを移すことを防ぐことになります。

女性にとってはやはり子宮頸がんの発症が最も怖いHPV関連疾患ですので、このリスクをパートナーに対して減らしてあげることができるのは、男性としても非常に嬉しいことになるのではないでしょうか。

男性はHPVワクチンを接種できるのか

HPVワクチンの「適応」は、日本ではもともと「9歳以上の女性」のみでしたが、2020年12月25日に4価HPVワクチン(ガーダシル)の9歳以上の男性への適応にも厚生労働省による承認がおりました。(2価と9価は男性への接種が承認されていません)

ただ、女子(小6~高1)と違って、男子はまだ「定期予防接種」の対象ではありません

「適応」はあるのに「定期接種」ではないというのは、定期接種のワクチンは対象年齢であれば無料で受けることができるが、適応があるだけだと自費接種になってしまうということです。つまり、男性が接種する場合は、年齢にかかわらず全額自費となります(4価ワクチンの場合、全3回で計5~6万円)。

男子へのHPVワクチン接種費用助成を独自にしている自治体

しかし、最近では男性への接種を広げようと、独自に接種費用を補助する自治体が増えてきています。男子に対するHPVワクチンの費用助成をすると明らかにした自治体には以下のようなところがあります。
*なお、あくまでも一部の自治体の紹介となりますので、以下に記載がない場合や最新情報については、ご自身の自治体窓口にご確認ください。

今後、国として公費補助が決まれば最も嬉しいですが、こうして独自に自治体が費用助成を開始し、それが広がっていくことがとても心強いと思っています。

男性への接種に関する海外の状況

海外では、日本より早く、男性への接種勧奨や費用助成が進んでいます。

例えばアメリカやイギリス、オーストラリア、カナダなどでは、女性だけでなく男性へのHPVワクチン接種を政府が公的に推奨しています。

そして、オーストラリアでは88%、アメリカでは64%の男子がHPVワクチンを接種しています(文献2)。

このように、先進国が中心ではありますが、世界的にも男性へのHPVワクチン接種がだんだんと当たり前になってきている、ということは多くの方に知っておいていただきたい情報です。

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