皆さんに知っておいてほしい産婦人科の怖い話(7) 〜産科危機的出血〜
本ニュースレターでは、女性の健康や産婦人科医療に関わるホットトピックや社会課題、注目のサービス、テクノロジーなどについて、産婦人科医・重見大介がわかりやすく紹介・解説しています。「○○が注目されているけど、実は/正直言ってxxなんです」というような表では話しにくい本音も話します。
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産婦人科医として診療にあたっていると、ときどき「冷や汗が止まらないくらいの緊急事態」に出くわすことがあります。いずれもそうした事態を回避するために患者・医師双方にできることがあると思っているので、架空の事例を通じて「産婦人科の怖い話」を紹介します。
今回は「産科危機的出血」です。
この記事でわかること
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「産科危機的出血」の事例紹介(架空の事例)
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産科危機的出血とはどんな病気か
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主な原因
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主な対処法
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なぜ「双手圧迫法」という原始的な方法を用いる必要があるのか
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緊急処置の際に麻酔がかけられない理由
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マイオピニオン(私個人の考えや意見)
事例紹介(架空の事例)
*以下は私が作った架空の事例で、一般化したものです。
*出血などの描写が苦手な方はご注意ください。
35歳のAさんは、第2子の出産を控えて予定日近くに入院しました。経過は順調で、自然分娩を予定していましたが、分娩中に胎児の心拍が不安定になり、医師の判断で吸引分娩を実施しました。Aさんは不安な気持ちを抱えながらも、隣にいる助産師に勇気づけられながら最後まで頑張りました。
分娩は無事に終了し、元気な赤ちゃんの産声が病室に響きました。胎盤も出てきて、いざ病室に戻ろうかと思っていたところ、突然着ていたパジャマの下半分が血だらけになっていることに気づきました。すぐにナースコールし、到着した助産師は血相を変えて医師を呼びました。
すぐに駆けつけた医師は多量に出続けている出血を見てから、子宮が全く収縮できていないことを確認しました。産後出血が通常の範囲を超え、迅速な対応が必要な「弛緩出血」の状態だと考えられました。出血量はわずか5分で1000mlを超え、「産科危機的出血」の状況であり、命の危険が迫っていました。
医師は子宮収縮剤の投与を助産師へ指示し、同時に「双手圧迫法」を実施しました。子宮を両手で物理的に圧迫しながら、他の医師の招集と輸血の準備も指示しました。幸い、その病院では放射線科医が常駐しており、動脈内に特殊な医療用物質を留置して子宮からの出血を止める処置(=動脈塞栓術)が実施可能でした。
医師たちは状況を注視し、子宮摘出を避けるためにも、動脈塞栓術は必要だと判断し、本人の同意を得た上で麻酔科医とともに緊急処置へ向かいました。処置はうまくいき、Aさんの出血は無事に止まり、子宮摘出手術は回避できました。結果的に出血量は2300mlとなっており、大量輸血も並行して進めながら、集中治療室で様子を見ることとなりました。
翌朝、Aさんは状態が落ち着き、しばらく入院ののちに無事退院することができました。帰り際、上のお子さんが生まれたばかりの赤ちゃんを可愛がっている様子を、笑顔でお母さんが眺めている姿が印象的でした。
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- 産科危機的出血とは
- 産科危機的出血の原因
- 産科危機的出血への対処法
- なぜ「双手圧迫法」という原始的な方法を用いる必要があるのか
- 大出血を起こしている際に麻酔がかけられない理由
- マイオピニオン(私個人の考えや意見)
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