出産立ち合いで産婦人科医は何を考えてる? 〜頭の中を大公開〜
本ニュースレターでは、女性の健康や産婦人科医療に関わるホットトピックや社会課題、注目のサービス、テクノロジーなどについて、産婦人科医・重見大介がわかりやすく紹介・解説しています。「○○が注目されているけど、実は/正直言ってxxなんです」というような表では話しにくい本音も話します。
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出産に立ち会う産婦人科医としては、陣痛が来た妊婦さんの入院時点から色々なことを考えます。ただ、状況や医療機関によって、医師と接したり話したりする回数やタイミングは違っていますし、人生に何回も経験することでもないですので、産婦人科医がどんなことを考えているのか不思議に思うかもしれません。
今回は、無痛分娩ではない経腟分娩を想定し、妊婦さんが出産のために入院してから退院するまで、産婦人科医がどんなことを考えているのか、頭の中を赤裸々にお伝えします。また、男性パートナーへ知っておいてほしいこと、お心掛けておいてほしいことも最後に書きました。ぜひお楽しみください。(なるべく客観的な内容を心掛けましたが、あくまでも私個人が書いたものであることをご了承くださいませ)
この記事でわかること
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「陣痛が来た妊婦さんの入院から子宮口が全開になるまで」に考えていること
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「子宮口が全開してから赤ちゃんが完全に出てくるまで」に考えていること
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「赤ちゃんが完全に出てから胎盤が完全に出るまで」に考えていること
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「胎盤が完全に出て分娩が終了してから、産後2時間まで」に考えていること
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「出産翌日から退院(産後5〜7日目程度)するまで」に考えていること
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男性パートナーへ知っておいてほしいこと、お心掛けておいてほしいこと
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マイオピニオン(総合的な私個人の考えや意見)
「陣痛が来た妊婦さんの入院から子宮口が全開になるまで」に考えていること
陣痛が来た妊婦さんの入院から子宮口が全開になるまでの過程は、先がなかなか読めない中で安全に分娩が進行しているか、していくかを判断しなければならず、実は内心かなり不安の連続だったりします(私は表情にあまり出しませんが)。妊婦さんの痛みや不安を和らげ、ご家族を安心させながら、医療チーム全体が一体となって、母子の安全を最優先に取り組みます。
まず、妊婦さんが入院してきた時、医師として最初に確認するのは母体と胎児の状態と進行具合です。本当に陣痛が開始しているか、子宮口はどのくらい開いて、赤ちゃんの頭はどのくらい下がってきているのか、破水はしているか、発熱や異常な出血はないか、胎児心拍は正常範囲か、などを確認します。この段階での所見をもとに、その後の経過や対応をまず予想・検討しますので、このタイミングでは「見逃してはならない異常なサイン」に細心の注意を払ってチェックします。
*入院時の所見で、「xx時間後くらいに子宮口が全開になってxx時くらいに産まれるかなー」と予想を立てるんですが、これがなかなかに難しく、ベテランの産婦人科医であっても「前後1時間の範囲で予想が当たる」ことはかなり少ないのが現実です。そういう意味では、かなり原始的な領域なんですよねぇ。
妊婦さんやご家族に対しては、分娩が進行するにつれて不安や期待が入り混じることを想定し、適切なコミュニケーションを心がけます。分娩の進行状況や今後の見通しをなるべくわかりやすく説明し、できるだけ安心感を持ってもらいます。ご家族にとっても出産は大きな出来事ですが、やはり医学的に大切なことはご理解いただく必要はあるので、「一緒に母子ともに安全な出産を迎えるためのチーム」のような感覚で接します。
医療チーム内での意思疎通も非常に重要です。助産師や看護師、無痛分娩をする場合には麻酔科医(誰が対応するかは医療機関によって異なりますが)としっかり情報共有し、連携します。特に、子宮口が全開になるまでの間は、陣痛がどのように進んでいるか(進み具合は順調か)、母体の疲労、血圧等の異常がないか、そして必要に応じた医療介入のタイミングについて、チーム全員で共有します。妊婦さんと最も接する機会が多いのは担当の助産師(または看護師)であることが多いですが、各メンバーがそれぞれの役割を果たすことで、スムーズな分娩をサポートします。
また、分娩が進行するにつれて、稀ながらも起こり得る合併症に対して常に警戒しています。産婦人科医であれば誰でも常に頭に浮かべながら対応します。例えば、子宮破裂(陣痛でかかる力によって子宮の壁が断裂してしまうもの。帝王切開の経験がある人や過去に子宮筋腫等の手術を受けた人は特に注意。)や胎盤早期剥離(赤ちゃんが出てくるより前に胎盤が剥がれてしまう。命の危険に直結する最も怖い疾患の一つ。)、臍帯脱出(破水後、赤ちゃんの頭より臍の緒が先に出てきてしまう。こうなったら超緊急の帝王切開が必要。)などの緊急事態が発生した場合、即座に対応できる準備が求められます。これらの合併症は予測が難しい場合も多いのですが、徴候やサインがないかを常に警戒しています。