妊娠は老化を早める? 〜妊娠による生物学的年齢への影響とは〜
本ニュースレターでは、女性の健康や産婦人科医療に関わるホットトピックや社会課題、注目のサービス、テクノロジーなどについて、産婦人科医・重見大介がわかりやすく紹介・解説しています。「○○が注目されているけど、実は/正直言ってxxなんです」というような表では話しにくい本音も話します。
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近年、老化(英語ではエイジングと言いますね)に関する研究がとても活発になっており、「老化は治療・予防できる疾患である」という新しい概念・考え方が広まりつつあります。この観点から、妊娠が女性の身体に与える影響についても、これまでとは異なる視点で研究が進められています。
今回は、妊娠と老化の関連性について、最新の研究結果をもとに解説します。
この記事でわかること
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老化は治療・予防できる疾患であるという考え方
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同じ年齢でも個々人で異なる「生物学的年齢」
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エピジェネティッククロックとは何か
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老化と妊娠の関連性
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近年の研究でわかってきた「妊娠が老化に与える影響」
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「妊娠」は女性の身体にどういう変化を起こすのか
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一回の妊娠でどのくらい老化が進むのか
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妊娠による老化への影響をカバーする方法
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公衆衛生や医療の専門家が考えていくべきこと
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マイオピニオン(総合的な私個人の考えや意見)
老化は治療・予防できる疾患であるという考え方
私たちはこれまで、目が見えづらくなる、体の節々が痛くなるなど、体に起きる老化を「避けられない自然な変化」と考えてきました。しかし、近年の研究で老化のメカニズムが徐々に解明され、その過程に介入できる可能性が示唆されています。特に分子レベルでの老化のメカニズムが解明されつつあることや、老化と関連した疾患(がん、心臓病、認知症など)の予防や治療法の進歩を背景として、急速に知見が積み重ねられています。
例えば、2006年にはハーバード大の研究室でマウスの寿命を延ばしたとみられる物質が発見され(文献1)、2016年には、糖尿病治療薬がヒトの寿命を延ばす可能性があるとして注目を集めました(文献2)。これらの研究成果は、老化を単なる自然現象ではなく、治療や予防ができる生物学的プロセスとして捉える新しい視点を提示しています。
つまり、「老化は治療・予防できる疾患である」という考え方がなされ始めているんですね。
同じ年齢でも個々人で異なる「生物学的年齢」
老化を考える上で、ひとつの大きな問題になるは、何を持って「老化」の度合いを測るのか、という点です。
私たちは通常、誕生日を基準に年齢を数えますが、実際の身体の状態は同じ年齢でも個人差があります。この個人差を数値化したものを「生物学的年齢」と呼びます。
生物学的年齢は、細胞レベルでの老化の程度を反映しており、健康状態や寿命とより密接に関連していると考えられています。生物学的年齢は、遺伝的要因や生活習慣(食事、運動、睡眠など)、環境要因(仕事のストレス、大気汚染など)、既往歴、ホルモンバランスなどが関連して決まっていきます。
例えば、同じ50歳の人でも、健康的な生活習慣を送っている人は生物学的年齢が45歳程度かもしれません。一方、喫煙や過度の飲酒、不規則な生活を送っている人は、生物学的年齢が55歳以上になっている可能性があります。
もし生物学的年齢を知ることができれば、生活習慣の改善や治療の効果を客観的に評価できる可能性がありますよね。