「胎盤食」「プラセンタカプセル」は健康に良い?メリットや危険性について徹底解説
こんにちは。本ニュースレターでは、女性の健康や産婦人科医療に関わるホットトピックや社会課題、注目のサービス、テクノロジーなどについて、産婦人科医・重見大介がわかりやすく紹介・解説しています。「○○が注目されているけど、実は/正直言ってxxなんです」というような表では話しにくい本音も話します。
詳細は以下をご覧ください。
今回は、2018年にAmerican Journal of Obstetrics and Gynecologyという産婦人科領域の学術雑誌に掲載された論文をベースに解説します (1)。
この記事でわかること
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「胎盤食」とはどんなものか
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胎盤を食べる人はどのように摂取しているのか
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人間以外の哺乳類において胎盤食のメリットはあるのか
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人間にとっての胎盤食のメリットはあるのか
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胎盤食の危険性やデメリット
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マイオピニオン(総合的な私個人の考えや意見)
「胎盤食」とは
「胎盤食」、すなわち出産後の胎盤を母親が食べる(もしくは、カプセルの形で服用する)という行為は、哺乳類の間で広く行われています。しかし、現代の人間の文化の中で出産後の胎盤を食べることが習慣化しているものはないとされています。
ところが、米国をはじめとしてさまざまな地域の一部の人は、自然分娩への関心が高まるにつれて、胎盤食への関心も高まっているようです。
過去10年間で、プラセンタカプセル(胎盤の成分をカプセル化したもの)についてのGoogle検索の数は増え続けていることがわかっています。
Farr A, et al. Am J Obstet Gynecol. 2018;218(4):401.e1-401.e11.
人類学的には、約200万年前にホモ・エレクトゥスが火を使い始めたことが、人間の文化において胎盤食という行為の消滅につながった可能性があると考えられています。
胎盤を食べる人はどのように摂取している?
胎盤を食べる方法として、そのまま、焼いて食べる、乾燥させて摂取する、カプセル化して飲む、またはスムージーのように溶かして摂取するなどがあります。
最も頻繁に利用される方法は「蒸してから乾燥させてカプセル化」です。冷凍した胎盤を水で洗い、膜を剥ぎ取り、薄切りにし、蒸してから115–160°F (46–71°C)で乾燥させ、粉砕してからゼラチンカプセルに入れ、室温で保存します。
ただし、一部の栄養素(例えば鉄)は途中の処理やカプセル化の過程で失われる可能性があり、実際に摂取する量で生物学的な活性を持つことや臨床的なメリットをもたらすことはほぼないと考えられています。(そもそも、鉄分や栄養素は通常の食事で十分に摂取することができますしね)
人間以外の哺乳類において胎盤食のメリットはあるの?
胎盤にはプロスタグランジンというホルモンが含まれており、これは子宮の収縮を促します。また、乳腺細胞周辺の平滑筋を収縮させて母乳を排出することも促します。
加えて、胎盤を摂取することで痛みの閾値を上昇させる鎮痛効果を生じることが、げっ歯類で認められています。また、胎盤を食べることでラットの正常な腸活動の回復など、他のいくつかのメリットがあるのではないかという研究報告もあります。
他には、胎盤食は野生の捕食者から出産の痕跡を隠すためだという考え方があります。
ただし、ラットが人間の胎盤を摂取してもホルモンへの影響は認められないことから、動物の種によってそれぞれ特有の影響を示すものだと考えられており、動物実験の結果を人間に一般化すべきではないと言えるでしょう。