骨盤底筋トレーニング("腟トレ")の最新知見①
こんにちは。本ニュースレターでは、女性の健康や産婦人科医療に関わるホットトピックや社会課題、注目のサービス、テクノロジーなどについて、産婦人科医・重見大介がわかりやすく紹介・解説しています。「○○が注目されているけど、実は/正直言ってxxなんです」というような表では話しにくい本音も話します。
詳細は以下をご覧ください。
この記事でわかること
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骨盤底筋とはどんなものか
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骨盤底筋が弱まることで起こるトラブル
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誰でもいつでもトレーニングしていいのか
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自分でできる具体的なトレーニング方法
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最新知見(1):産後の骨盤底筋機能はほぼ全ての女性で自然に治る?
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最新知見(2):アプリやリモートトレーニングの有効性はある?
骨盤底筋とは?
骨盤底筋とは、骨盤内の臓器を支えている筋肉群のことです。膀胱や直腸、女性の場合は子宮も骨盤内の臓器なので、これらの臓器と密接に関わっています。特に、膀胱と腸のコントロールに重要な役割を担っています。
他の筋肉と同様に、骨盤底筋も傷ついたり弱まったりすることがあります。主な原因として妊娠、出産、肥満、一部の手術などが挙げられますが、歳を重ねることによっても弱まってしまいます。
近年では、よく「腟のトレーニングで締まりを良くしましょう!」といういわゆる「腟トレ」としての発信を見かけます。腟は骨盤に密接している部位であり、確かに骨盤底筋のトレーニングによって副次的に腟周囲の筋肉を鍛えることもできます。ただし、上記の通り、トレーニングすることで鍛えられるのは骨盤底筋であり、(これから説明しますが)トレーニングをしてはいけない・するべきではない状況の人もいますのでしっかり把握しておきましょう。
また、過剰な医学的効果を謳うような広告をしている謎ツールも散見されますので、その辺りも見極めることが重要です。
骨盤底筋が弱まることで起こるトラブルとは
骨盤底筋が傷ついたり弱まったりする原因としては、加齢、妊娠・分娩(帝王切開でも!)、運動不足、過体重・肥満などが挙げられます。
骨盤底筋が傷ついたり弱まったりすると、以下のようなトラブルが生じるリスクが高まります。
(1) 尿失禁(尿漏れ)
尿が漏れたり、膀胱のコントロールができなくなることです。
尿失禁の一種である「ストレス性尿失禁」は、腹部に圧力がかかった(咳やくしゃみ、激しい運動をしたときなど)ときや尿道周囲の筋肉がきちんとコントロールできないときに起こります。ストレス性尿失禁は出産を経験した人に起こりやすいものです。
他に「切迫性尿失禁」と呼ばれるものがあり、これは定期的に突然の尿意を感じてしまうものです。
(2) 便失禁
便が自分の意思とは関係なく出てしまうものです。骨盤底筋の激しいダメージ(難産など)は、便失禁の原因となることがあります。
(3) 骨盤臓器脱
膀胱、直腸、子宮が骨盤の位置よりも下方に落ちてきて、多くの場合は腟の中に膨らみができてしまいます。骨盤底筋が弱くなり、臓器を支えることができなくなると起こりやすくなります。軽度であれば無症状のこともありますが、排尿トラブルの原因となったり、お風呂やセックスの際に腟の中の膨らみに気付く人もいるでしょう。
(4) 性機能障害
骨盤底筋が弱まることで、性的興奮の低下、オーガズムの頻度の低下、およびセックスが難しくなることが増えるというデータがあります (1)。
これらの症状がある場合、骨盤底筋を強化するトレーニングやエクササイズを行うことで、症状の改善につながることが期待できます。