性器クラミジアの撲滅へ!ワクチン開発の最前線
本ニュースレターでは、女性の健康や産婦人科医療に関わるホットトピックや社会課題、注目のサービス、テクノロジーなどについて、産婦人科医・重見大介がわかりやすく紹介・解説しています。「○○が注目されているけど、実は/正直言ってxxなんです」というような表では話しにくい本音も話します。
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性感染症(性的接触によって感染する病気)の中でも近年注目されているのが「性器クラミジア感染症」です。この疾患は若年層の女性において無症状で進行することが多く、放置すると深刻な合併症を引き起こす可能性があります。
性器クラミジアはコンドームによる感染予防や早期発見・治療が重要ですが、ワクチンは存在していません。今回は、クラミジアワクチンに焦点を当て、ワクチン開発が難しい理由や、その最新の開発状況と今後の展望について紹介します。
この記事でわかること
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世界と日本の性感染症の拡大状況
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性感染症でワクチンがあるものとないもの
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性感染症に対するワクチン開発の重要性と難しさ
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性器クラミジア感染症の概要と拡大状況
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性器クラミジアに対するワクチン研究の開発状況
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性器クラミジアワクチンの今後の展望
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マイオピニオン(総合的な私個人の考えや意見)
世界と日本の性感染症の拡大状況
日本においても世界においても、性感染症は大きな公衆衛生的課題です。
日本では、近年、性感染症の報告件数が増加傾向にあります。感染症法によって定められた、定点医療機関からの報告がされている性感染症(5類指定)の中でも、性器クラミジア感染症や淋菌感染症は過去10年間で徐々に増えており、全数把握疾患(5類指定)の梅毒においては3年連続で過去最多を更新して2023年度には14,906人に達しています。
世界的にみても、性行動の変化や都市化、抗菌薬耐性菌の拡大などが影響し、性感染症は多くの人々の健康に深刻な影響を与えています。世界保健機関(WHO)は、世界中で毎日 100 万人が治療可能な性感染症に感染していると推計しています。
性感染症の拡大は、個人の健康のみならず、社会全体にも影響を及ぼします。特に、無症状で進行するケースが多いクラミジアは、早期発見・治療が遅れると不妊や深刻な合併症を引き起こす可能性があるため、予防策がとても重要な疾患です。
性感染症でワクチンがあるものとないもの
感染症の対策で重要なものといえば、ワクチンですね。性感染症の中には、すでにワクチンが開発されているものもあります。
たとえば、私も以前から啓発活動に携わっている「HPVワクチン」。ヒトパピローマウイルス(HPV)は子宮頸がんを引き起こすウイルスとして知られており、安全で効果的な予防ワクチンが世界中で普及しています。また、B型肝炎ウイルスも性感染症の一つであり、こちらもワクチンが活用されています。
一方で、他の多くの性感染症はワクチンが未だ存在していません。ヘルペスウイルスや、エイズで知られるHIVに対するワクチン開発の研究が進行中ですが、未だ実用化できる候補は存在していません。世界保健機関(WHO)は性感染症のワクチン開発情報を取りまとめたポータルサイト「STI Watch」を開設し、さらなる開発を促進しています。