つわりの重症化にピロリ菌が関連?最近の研究報告を紐解いてみる

今回は、つわりとピロリ菌の関係について、産婦人科医の視点からわかりやすく解説します。
重見大介 2026.04.16
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妊娠初期のつわりは多くの方が経験しますが、中には食事も水分もとれず、入院が必要になるほど重くなる人もいます。まだ予防薬や特効薬と言えるものはなく、妊婦さんへの大きな負担の一つになっています。

近年、胃の中にすみつく「ピロリ菌」が、こうした重いつわりに関係しているのではないか、という可能性が注目されています。
今回は最新の論文をもとに、つわりとピロリ菌の関係を、産婦人科医の視点からわかりやすく解説します。

この記事でわかること

  • 「つわり」と「妊娠悪阻」はどう違うか

  • ピロリ菌とは何者なのか

  • なぜ産科でピロリ菌が注目されるのか

  • 最近の日本の論文でわかった「ピロリ菌と重症妊娠悪阻の関連」

  • 考えられるメカニズム

  • これまでの研究でわかっていたこと(不妊との関連性なども含め)

  • マイオピニオン(総合的な私個人の考えや意見)

***

そもそも「つわり」と「妊娠悪阻」はどう違う?

妊娠初期の吐き気や食べ物の好みの変化そのものは、珍しいことではありません。

いわゆる「つわり」は妊婦さんの45〜90%にみられる症状とみなされています。多くは妊娠7〜12週ごろに強くなり、その後は12〜16週ごろまでに自然に軽くなっていくことが一般的には多いです。つまり、「つわり」そのものは妊娠初期によくある変化ということですね。

一方で、同じ「妊娠中の気持ち悪さや嘔吐」でも、日常生活や心身に大きな支障が出るほど重くなる場合があります。これは「妊娠悪阻」と呼ばれます。

通常、

  • ほぼ毎日のように吐いてしまう

  • 水分さえ十分に摂れない

  • 尿ケトンが強く陽性になる

  • 妊娠前より5%以上体重が減る

などが、重症の目安として挙げられています。

尿ケトンというのは、食事や水分が十分にとれず、体が飢餓状態に近づいているときに出やすくなる物質で、これが尿中に現れていると「エネルギー不足」のサインです。
つまり妊娠悪阻は、「つらい」という自覚症状だけではなく、体の中のさまざまなバランスが崩れてきている危険な状態とも言えます。

さらに妊娠悪阻が進む(適切な対処がなされない)と、脱水だけでなく、電解質異常、酸塩基平衡の乱れ、肝機能や腎機能への影響、意識障害などを生じてしまう危険性があります。ビタミンB1不足によるウェルニッケ脳症のような重い合併症にも注意が必要です。

ここまでくると危ないですので、早めに点滴や栄養補給を始めることがとても重要です。

過去の記事に、つわりと妊娠悪阻に関する詳細や、日本と海外での治療法の違いなどをまとめているのでぜひそちらもご覧ください。

ピロリ菌とは何者?なぜ産科で注目されるの?

ピロリ菌は、正式にはHelicobacter pyloriと呼ばれる細菌で、主に胃の中にすみつきます。一般には、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、萎縮性胃炎、胃がんとの関係で知られているため、「消化器の病気の話」と感じる方も多いかもしれません。

実際、さまざまな研究でピロリ菌は「胃・十二指腸の病気に関わる確立したリスク因子」と位置付けられています。

では、なぜそのピロリ菌が産婦人科の論文で取り上げられるのでしょうか。

理由は、以前から「妊娠悪阻の人ではピロリ菌への曝露や抗体陽性が多いのではないか」という報告が積み重なってきたからです。今回紹介する論文でも、過去の症例対照研究やメタ解析を背景に、ピロリ菌感染が妊娠悪阻の発症リスクに関係する可能性に触れています。

ただし、これまでの研究の多くは「妊娠悪阻になりやすいか」を検討したものが中心で、「入院が長引くほど重症化するか」まで検討した日本のデータは限られていました。

そこで、最近見つけた日本からの研究を後で紹介します。

診療現場では、

「なぜこの人は治療してもなかなか良くならないのだろう」
「同じように見えても、なぜここまで長引くのだろう」

と感じる場面がよくあります。

そうしたとき、単に「たまたま治りにくいつわりの人なのかな」と片付けるのではなく、消化器由来の要因も含めて、身体全体をチェックすることが大事だと私も教育を受けましたし、そうして思わぬ原因が見つかることも珍しくないのです。

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