男性向けの避妊法はなぜ種類が少ない? 〜開発の壁や最新の研究開発状況とは〜
本ニュースレターでは、女性の健康や産婦人科医療に関わるホットトピックや社会課題、注目のサービス、テクノロジーなどについて、産婦人科医・重見大介がわかりやすく紹介・解説しています。「○○が注目されているけど、実は/正直言ってxxなんです」というような表では話しにくい本音も話します。
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避妊は男性と女性が協力して行うものですが、男性には手術(パイプカット)以外にコンドームしか思い浮かびませんよね。そんな中、近年では男性向けの新しい避妊法の研究が進んでいます。効果的で安全、かつ可逆的(やめればまた妊娠できる)な方法に注目が集まっています。
今回は、最新の研究論文を踏まえ、産婦人科医の視点から男性向けの新しい避妊方法についてわかりやすくお伝えします。男性向け避妊方法の実現が難しい理由も解説します。
男女がより公平に避妊の責任を分かち合える社会にしていきたいですよね。
この記事でわかること
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現在の男性避妊法:限られた選択肢
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新たな男性向け避妊法の開発や実現が難しい理由
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ホルモンを用いる男性向け避妊法:テストステロン単独療法
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ホルモンを用いる男性向け避妊法:テストステロン+プロゲスチン併用療法
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注目の新技術:避妊用ジェル
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ホルモンを用いない新たな避妊法の可能性とは
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男性向け避妊法の未来はどうなるのか
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マイオピニオン(総合的な私個人の考えや意見)
現在の男性避妊法:限られた選択肢
「確実な避妊」という言葉を聞くと、多くの人が女性用ピルや避妊リング(IUD)、子宮内システム(ミレーナ)を思い浮かべるのではないでしょうか。現在、男性が日常的に利用できる避妊法はだいぶ限られています。そして、女性からすれば「なぜ男性側にはこんなに確実性の高い避妊法が少ないんだろう?」と疑問に思うかもしれません。
男性向けの避妊法として一般的にイメージを持たれるのはコンドーム、腟外射精法(産婦人科医としては避妊法に含めたくないですが)、そしてパイプカット(精管切除術)の3つでしょう。
それぞれには利点もありますが、注意点や課題も多く存在します。
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コンドーム
手軽で非侵襲的(身体への負担が少ない)ですが、常に完璧に使用できなければ年間13〜15%程度の失敗率だとされています。使用方法や装着のタイミングを誤ると、避妊効果が大幅に低下してしまうことは大きな問題点です。 -
腟外射精法
最も古くから人類が実施してきた方法の一つだと思いますが、その成功率はとても低く、避妊法に含めるべきではないと考えましょう。 -
パイプカット
精管を切断する手術で、ほぼ100%の避妊効果がありますが、基本的には不可逆的(一度実施すると元には戻せない)であり、将来的に子どもを望む可能性がある男性には実施できません。
これらの選択肢を眺めてみると、男性の立場としても「もっと安全で確実、かつ可逆的で利用しやすい、自分でできる方法があればいいのに」と感じます。実際、世界的な調査では50%以上の男性が、効果的で安全な男性向け避妊法があれば使用したいと回答しています(文献1)。
しかし、男性向け避妊法の開発は長らく停滞していたというのが実際のところです。これは、男性の生殖機能が女性と比べて複雑であることや、製薬業界の関心が薄かったことなどが要因として挙げられます。それでも近年、少しずつ新たな可能性が見え始めています。
新しい男性避妊法の開発は、男女が共に避妊の責任を分かち合い、より公平なパートナーシップを築くための大切な一歩だと私は思っています。
ここからは、男性の避妊方法の開発の難しさを解説し、これまでの研究開発の歴史と、最新の研究状況やテクノロジーを紹介していきます。ぜひ最後までご覧ください。
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